ハチワンダイバー第六話

フジテレビ系。土曜ドラマハチワンダイバー」。

原作:柴田ヨクサルハチワンダイバー」(集英社ヤングジャンプコミックス刊)。脚本:古家和尚。音楽:澤野弘之。将棋監修:鈴木大介八段。協力:社団法人日本将棋連盟。プロデュース:東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:八木一介。第六話。
第三話で大活躍をした「二こ神」こと神野神太郎(大杉漣)が再登場。「ハチワン」こと菅田健太郎(溝端淳平)は再起をかけて二こ神の下で厳しい修業に励んだ。菅田は二こ神の弟子になったわけだが、そもそも幼時よりプロ棋士鈴木歩人(小日向文世)を師として事え、親しく教えを受け、唯一無二の恩師として今なお尊敬している菅田にとって、たかだかアマチュア真剣師に過ぎない二こ神に新たに師事することは到底できることではなかったろう。彼のこの思いを翻させたのは海豚(池田鉄洋)の出現だった。二こ神が海豚に勝ったからか?否。無論それもあるが、それだけではない。
二十年前、プロ棋士でありながらアマチュアの二こ神の「雁木」の粘り強さに敗れた彼は、雪辱すべく、再戦を挑み、零落してもなお将棋によって生きる甲斐を見失わないでいる二こ神は、喜んで応じた。このそれぞれの姿勢も両名の関係も、同じく将棋に生の意味を見出すほかないハチワン菅田には好ましく思われたろう。しかし何よりも二こ神の将棋=生それ自体が菅田の心を根底から揺るがし、決定的に動かした。二こ神の将棋が静けさに満ちて堂々悠然としたものではなく、泥の中を這いつくばるような、苦しく粘り強いものであることは、第三話において二こ神自身が述べていた。今回の対局においてもそうだった。どんなに追い詰められても屈することなく、粘って粘り抜いて最後に逆転させてみせた。それはどこまで零落しようとも将棋だけは捨てることのできない二こ神の生そのものであるとすれば、ハチワン菅田健太郎はそこに己の生のもう一つの範型を、師を、見出さずにはいなかったのだ。
海豚がプロ棋士としての誇りから一介の真剣師に過ぎない二こ神を口汚く罵倒し嘲っていたとき、菅田が悔しそうにしていたのは、この対局のあとの彼の入門の決意を予告するものに他ならない。だが、厳密には実は、再会の日の夜と翌朝の時点で既に彼は、二こ神に入門すべきかどうか、悩み始めてもいたようだ。賢者のような棋士鈴木歩人のみを唯一の師として仰ぎたい思いに囚われる余り、決意できないでいたのだ。
それにしても、菅田と二こ神の間の遣り取りは全て面白かった。再会の直後の二こ神の「ギュッて?おっぱいの間にギュッてか?おっぱいとおっぱいの間にギュッてか?そよちゃんのか?」という問いは、内容こそ馬鹿馬鹿しいものの、凄まじい気迫に満ちていた。二こ神と海豚との再会、そして対局の間、両名の激しい対峙を見守り見詰めていたハチワンの顔も一々凄かった。このドラマには主要な出演者たちの所謂「顔芸」の競演のような面があるが、その点では今宵は凄かった。これに関して正直な感想を云えば、ハチワン役の溝端淳平は海豚役の池田鉄洋を軽く超えていた。原型を留めていないと云うか、番組の合間のCM時間中に流れた角川映画「DIVE!!」CMの映像に見る沖津飛沫役の美少年が、このハチワン役者と同一人物であるとは、直ぐには信じ難くなってしまう程だ。
二こ神の下での修業中、菅田の持参した衣服を賭けての将棋の日々で、次第に菅田の衣服が剥がされ、やがて二こ神の服装が若々しくなっていたのも傑作だった。菅田の下着姿もよかった。私見だけで云えば「受け師さん」こと中静そよ(仲里依紗)の白メイド姿よりもよかったと思う。そして二こ神と菅田が二人並んで魚を釣って、焼き魚に喰らい付いたりオニギリを食ったりするところも楽しかった。