炎神戦隊ゴーオンジャー第十八話

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第十八話「庶民ヒーロー」。武上純希脚本。渡辺勝也監督。
第一印象は最悪に近かったゴーオンウイングスのゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)とゴーオンシルバー須塔美羽(杉本有美)の兄妹も、早くも面白いところを見せ始めた。それを引き出したのはゴーオンジャーの兄貴分、ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)の熱さだった。
害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)の「汚い」策略に従い、彼の配下の蛮機獣バキュームバンキ(声:松野太紀)によって美羽が誘拐され、拘束されて人質に取られてしまった中、いつでも冷静であろうとする兄の大翔にとってはどう考えても対処のしようもない状況を、力ずくで打開してみせたのは走輔の熱さだけだったからだ。変身もできない危機的な条件下にありながらも生身の人間のまま「自力で」蛮機獣に挑み、近くにあった岩を打つけて気絶させた上で自身の武器と美羽の武器をともに取り戻してみせた殆ど野生児のような熱さには、見ていて興奮した。
この瞬間、この走輔こそが理想のヒーローに違いないと思えた。
大翔がゴーオンジャーとの共闘をあっさり決意できたのは、その熱さに感動したからに他ならないだろう。なお、これに先立ち、人質の美羽を前にして兄の大翔が己の武器を捨てるか否か苦悩していたとき、走輔がそこへ駆け付けたのを見て美羽が嬉しそうだったのも見逃せない。美羽の本心は、あの表情に表れていたとしか思えなかった。その意味で、この事件のあった日の朝の、美羽のゴーオンジャー宅への訪問にしても、走輔への思いに駆られたものとしか思えなくなる。
その朝。走輔は美羽を「ビカビカ兄貴の妹!」と呼ばわり、「コノヤロ!」と攻めたが、対する美羽は「衣食足りて礼節を知るって云うじゃない。住むとこ、着るもの、食べるもの、全部がちゃんとしてなきゃ、ゴーオンジャーみたいにダメになるって格言!」と酷いことを云っていた。そして美羽はホテルかどこかのレストランにゴーオンジャー五人衆を招いて朝食を御馳走したところ、走輔はゴーオングリーン城範人(碓井将大)、ゴーオンブラック石原軍平(海老澤健次)とともに「夢か、現か、幻か、今日の食卓には玉子がねえぜ!」と大ハシャギ。他方、毎日のように玉子料理ばかり作る給食係のゴーオンブルー香坂連(片岡信和)は美羽に対し「俺たち、これでもちゃんとしてるっす」と反論したが、そのとき走輔と範人と軍平は普段は食えない御馳走の数々に喜びの余り、余りにも行儀の悪い「ちゃんと」していない食べ方をしていて、全て台無し。だが、注目すべきはそのあと。
美羽は彼等を高級な洋服店へ連れて行き、ゴーオンイエロー楼山早輝(逢沢りな)のため、キレイなドレスやアクセサリーを大量に購入して全て贈った。支払いはゴールドカードで。しかし軍平は「ゴールドカードか!シルバーなのに?」と別のところで驚いていた。さて、こうして早輝のためのオシャレの準備を整えた美羽は、今度は走輔一人だけを渋谷に連れて、彼だけのための洋服を選びに行こうとしたのだ。おかしいではないか!連や範人や軍平には服を買ってやらないのか?と考えるに、結局のところ美羽の関心は走輔を素敵な男子に変身させてやることしかなかったのではないか?と思えてしまう。
美羽にとっての理想の男子は兄の大翔だから、走輔に対しても大翔がどれだけ優れた男子であるかを力説し、兄を見習うよう説教をし続けて、それで走輔を怒らせてしまった。だが、走輔に対する美羽のこの説教は、美羽が兄を愛するように走輔を愛したいと思っていることを含意するだろう。
とはいえ大翔は、美羽のこの行為について「野良犬とかを見ると、放っておけないらしい」と言い表した。しかもバキュームバンキとの戦闘が終結したあと、兄も妹もゴーオンジャーに説教をして範人を「ええ?まだダメダメ云うの?」と呆れさせた。この、本心の表さなさ加減が面白い。
他方、蛮機族ガイアークの居城ヘルガイユ宮殿。前回の戦闘で害地目の総力を結集したにもかかわらず敗北した件で害水大臣ケガレシア(及川奈央)は嫌味を云い、害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)と害地副大臣ヒラメキメデス(声:中井和哉)は悔しそうにしていたが、キタネイダスは、前回の戦闘ではゴーオンウイングスにこそ負けたもののゴーオンジャーには勝っていたことを述べ、ヨゴシュタインとヒラメキメデスを喜ばせた上、今度はゴーオンウイングスを攻める作戦を提案。
策略家として名を馳せるヒラメキメデスをも圧倒し得るキタネイダスの流石の策略を、ケガレシアは「ナイス!キタネイダス!流石、汚いでおじゃる。キタネエ、キタネエ」と絶賛した。「ナイス」と「キタネイダス」で韻を踏んだのか。最後の「キタネエ」は「汚い」と「来たねえ」の掛詞か。
その後、ゴーオンジャーやゴーオンウイングスとの戦闘中、「産業革命」を達成し、敵を徹底的に追い詰めつつあったバキュームバンキの予想外の奮闘振りに、ケガレシアが喜び、ヒラメキメデスも感心したとき、ヨゴシュタインだけは「このまま勝っちゃうなんて、きたねいです」と悔しがっていた。多分、本当に悔しがっていたわけではなく、単に「キタネイダス」と「汚いです」の駄洒落を云いたかっただけだろう。