炎神戦隊ゴーオンジャー第十九話

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第十九話「軍平ノホンネ」。宮下隼一脚本。諸田敏監督。
ゴーオンジャー入隊の第二期生にあたり、云わば同期の仲間であるゴーオングリーン城範人(碓井将大)とゴーオンブラック石原軍平(海老澤健次)のコンビ。範人がアルバイト生活を営んでいて今もその生活を続けている今時の若者であるのに対し、軍平は元警察官、換言すれば元地方公務員として働いていた厳格な組織人の専門職業人。だが、反面、軍平が警察官としての極めて特殊な経験しか持ち合わせないのに対し、範人は意外な程に多種多様な仕事を経験していて、何にでも柔軟に対応できる。今回の話の中でも、大道芸人になり切ることができていた。そして軍平が、苦悩して苦労しても、それでも容易には解決できないでいることを、範人は軽々と乗り越えてみせる。このように比較してみると範人の有能性が際立つが、厳格な専門性なくしては乗り越えられない局面は必ずやあるだろう。軍平の厳格主義と、範人の快楽主義とは両方ともに作用し合ってこそ価値がある。ゆえに名コンビであり得るのだ。
今回の戦闘で云えば、ノコギリバンキ(声:五代高之)相手の攻撃には、範人の柔軟な発想と社交性を生かした臨機応変のティームワークが光ったが、他方、ノコギリバンキによって倒壊させられそうになった高層建築の展望台から子どもたちを救出する局面では、軍平の論理的な判断、整然とした指揮命令系統の樹立、そして何よりも粘り強い力仕事が有効だった。人命救助は警察官と自衛官の本領発揮の場面なのだ。彼の情熱はそこに注がれる。
そう考えると、「プロ」の戦闘員としてのゴーオンウイングス、ゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)の限界がそこにあることにも気付く。彼は戦闘のプロフェッショナルであって人命救助は本分ではない。だから彼は、被害の拡大を予防するため、蛮機獣との戦闘には従事するが、人命を救助することには殆ど関心を示さない。これまでも常にそうだった。戦闘のプロフェッショナルでしかない。それは果たして「ヒーロー」なのだろうか。
なるほど、この意味において、ゴーオンジャーの兄貴分、ゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)が何時ものように熱く熱く放った言葉は、実にその辺の本質を突いていると判明する。「軍平、おまえ勘違いしてねえか?おれたちはプロでもなきゃ、アマでもねえ。おれもおまえもゴーオンジャーだ」。
英雄に求められるのは「限界」ではなく「全開」なのだ。
ところで、今回の話で面白かったことの一つは、携帯サイト「イマドキ女の子が選ぶ!マイ☆ベストヒーロー」というものが劇中に存在すること。そのサイト内には「ゴーオンジャーランキング」があって、範人も軍平も結構それを見ては気にしていたらしい。前半に明かされた人気ランキングは、確か、(1)ゴーオンレッド走輔、(2)ゴーオンシルバー須塔美羽(杉本有美)、(3)ゴーオングリーン範人、(4)ゴーオンイエロー楼山早輝(逢沢りな)、(5)ゴーオンゴールド大翔、(6)ゴーオンブルー香坂連(片岡信和)、(7)ゴーオンブラック軍平の順位。注目すべきは連の人気が唐突な急上昇のあと急降下していること。これは「イケイケイケメンパラダイス」の影響とでも見てよいだろうか。美羽の位置が高いのは早輝に気前よく服を買ったのが好評だったのだろうか。
これがノコギリバンキ相手の最初の戦闘のあとには(1)グリーン、(2)レッド、(3)ブルー、(4)イエロー、(5)シルバー、(6)ゴールド、(7)ブラックの順位に変動。そしてノコギリバンキを打倒したあとには(1)ブラック、(2)グリーン、(3)レッド、(4)ブルー、(5)シルバー、(6)イエロー、(7)ゴールドの順位に変動した。何れを見ても、戦闘それ自体よりも人命救助こそが高い評価を得ていることが明らかだ。誠に興味深い。
他方、蛮機族ガイアークの居城ヘルガイユ宮殿。ノコギリバンキを開発した害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)は実に強気で、腹心の害地副大臣ヒラメキメデス(声:中井和哉)も、この開発の素晴らしさを大絶賛。彼等の様子を、宮殿内のバーカウンターから見ていた害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)と害水大臣ケガレシア(及川奈央)の両名は「自信満々ぞよ。ヨゴシュタインの奴」「御世辞も満々でおじゃる。ヒラメキメデスの奴」と口々に悪口。
ゴーオンウイングスの攻撃を受けて敗走してきたノコギリバンキを、ヨゴシュタインが自信満々再び送り出したときも、キタネイダスとケガレシアは「また高いもの切るだけぞよ」「やっぱ、あの蛮機獣、芸がないでおじゃる」と陰口。それを耳にしたヒラメキメデス、「ウーン確かに、あのパワー、何かもっと上手い使い道が…」と考え込んでいた。何と!彼は上司ヨゴシュタインのあの作戦を本気では絶賛していなかったのか。やはり御世辞だったか。
そしてノコギリバンキの敗北のあと。ヨゴシュタインは「おのれ、おのれ、おのれ也!」と悔しがり、バーカウンターに座したケガレシアは「結局ワンパターンだからでおじゃる」、キタネイダスは害気大臣らしく「たまには空気でも汚してみたらよいぞよ」と辛口の批評をしていたが、そのとき、カウンター内でカクテルシェイカーを振りながら突然ヒラメキメデスが現れて、「空気を汚す?それイタダキ!」「ポク、ポク、ピーン!閃きました!」。早速ヒラメキメデスは爆破したばかりのノコギリバンキの破片をかき集め、新たな蛮機獣の開発に着手した。再利用とは意外に「エコ」だ。蛮機族が「エコ」で大丈夫なのか。
今回の戦闘の舞台は、特撮ヒーロードラマには時々出てくると思しい筑波研究学園都市つくばセンターか。あの広場で昔、まだ無名に近かった頃の(芸能事務所アミューズに引き抜かれる前の)三浦春馬は仲間たちとダンス等をしていたらしい。