ハチワンダイバー第十話

フジテレビ系。土曜ドラマハチワンダイバー」。
原作:柴田ヨクサルハチワンダイバー」(集英社ヤングジャンプコミックス刊)。脚本:古家和尚。音楽:澤野弘之。将棋監修:鈴木大介八段。協力:社団法人日本将棋連盟。プロデュース:東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:松山博昭。第十話。
主人公「ハチワン」こと菅田健太郎(溝端淳平)は、「アキバの受け師」こと中静そよ(仲里依紗)とともに殴りこんだ「鬼将会」本部において、「大将」桐嶋清十郎(石橋蓮司)と対局した。受け師の実の父であり、最強の真剣師であるのみか、「千里眼」によってあらゆる手を読み尽くして瞬時に勝敗の行方を見抜くことのできる最強の棋士でもあった。かつて新人棋士奨励会に所属してプロ棋士を目指していたが、一億もの大金を必要とする余り、賭博としての真剣に手を出した廉で会を追放され、夢を断たれた人物。だが、力量においては比類なく、鈴木歩人(小日向文世)をも破ったことがあった。もちろん鈴木歩人にとってはそれは乗り越えるべき「忌まわしき過去」だった。
今回の最高の見所は、ハチワン菅田の恩師、鈴木歩人によって二つ与えられた。一つは、菅田が鬼将会本部で桐嶋清十郎相手に一回目の対局をしていた夜、鈴木歩人が自室に籠り、やがて対峙すべき宿敵である鬼将会大将の「千里眼」を見破り去るべく、将棋盤を見詰め、あらゆる手の可能性を全て読み、「朝までには、忌まわしい過去を乗り越えてみせる」と心に誓っていた場面。棋士の凄みを感じさせた。もう一つは翌朝のこと。菅田が桐嶋清十郎との二回目の対局、同時に受け師も桐嶋清十郎との対局をしていたとき、鈴木歩人は宿敵を破り去り得る一手をついに発見していた。「この一手…、千里眼、敗れたり」。
驚くべきことに、同じとき、菅田と受け師もまたその「一手」を見抜いたらしいのだ。菅田にとっては二回目の対局になるこの対局において、桐嶋清十郎は菅田と受け師の二人を同時に相手にしていた。受け師は、家族を顧みることなく、病床の母を見殺しにしたも同然の父を責めながらの戦い。
受け師が父と真剣に云い合っていた間、菅田は、受け師の父を責めながら何時しか受け師の父への共感を明かし、やがてはドサクサに紛れて受け師への結婚の申し込みを始めた。「あなたは僕と同じだ。将棋に打ち込んで夢破れて、家族から目を逸らした」「黙れ!貴様と一緒にするな!」「僕は解ります!」「解らんでいい!」「だから…」「うるさい!」「だから…だから…、お嬢さんを僕にください!」「な、なんだ、おまえは?」「ください!」「駄目だ」「ください!」「駄目だ」「幸せにします!」「黙れ」「僕はカノジョを苦しませたりしません!」「黙れ!」「ください!」「黙れと云ってるだろ!」「おとうさん!」「貴様におとうさんなどど云われる云われはない!」。娘と父の会話、娘に結婚を申し込みたい男子とその娘の父との会話、二つの会話が同時進行しながらのこの二つの対局の同時進行は傑作だった。