新番組=太陽と海の教室

今宵からの新番組。
フジテレビ系。月九ドラマ「太陽と海の教室」。
脚本:坂元裕二。音楽:服部隆之。主題歌:UZ(織田裕二)「君の瞳に恋してる」。プロデュース:村瀬健。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:若松節朗。第一話。
この物語の主人公、櫻井朔太郎(織田裕二)は型破りな高校教師として描かれるが、それには二つの面が含まれてある。一つは無論、学園ドラマ、青春ドラマにおける熱血教師としては典型的とも云える馴染み深い像であり、生徒たちや他の教師たち、親たちの常識を外れ想像を絶する行動力を発揮することによって特徴付けられる。
だが、このドラマに固有の教師像として真に重要なのはもう一つの面で、云わば古代ギリシアソクラテスにまで遡ることのできる哲学的な対話者としての、哲学的な教師像に他ならない。彼は生徒たちを相手に、何の変哲もない問いを発しながら、それに対する決まり切った答えが答えにはなっていないものであることを明かし、混乱させ苛立たせながら、もっと真摯に自ら考えるという道へ導いて行こうとする。そのような教師が日本のテレヴィドラマにおいて描かれることは殆どないものと思う。なぜなら話を難解にするからだ。実際、ソクラテスが古代アテーナイの民からは変人と見做され、民主主義者からは反感を買ったように、このドラマにおいても早速、湘南学館3年1組の生徒たちは彼を最も嫌な教師と認定した。
湘南学館は一流の進学校であり、そこに通う生徒たちは優等生だ。優等生の常として世の中のあらゆることを解り切ったような気になっている。しかも、云わば大衆的な優等生である彼等は、教養(=humanitas)を鍛えるために必要な時間の余裕もなく、常に猛勉強することを強いられていて、教科書や参考書の類の教える常識の枠を自ら超え出るだけの知性を持ち合わせない。理事長の神谷龍之介(小日向文世)によって失脚させられ実権を剥奪されている校長の長谷部杏花(戸田恵子)が、生徒たちを幼稚園児の如しと形容するのはそのような意味であるだろう。だが、このような知の閉塞状況が囚人のような精神を生んでいるのは見易い。彼等がこのまま受験に勝って有力な大学を卒業したとしても、その後、どこへ行くと云うのだろうか。
勉強は必要だ。大いに勉強しなければならない。だが、勉強することには意味があるということも、知らなければならない。意味が解らないからやりたくない!と云うのは素直な態度であり、或る意味において好ましいとさえ云えなくもない。それとは逆に、解らなくとも辛くとも嫌でも勉強する!というのは、どんな理不尽な条件をも受け容れかねない精神状態であり、むしろ少年たちの精神にとって危険ではないのか。丁度、根岸洋貴(岡田将生)が、湘南西高等学校の末吉春臣(中村倫也)からの理不尽なイジメに屈従し続けていたように。だが、勉強はイジメでもなければ理不尽でもなく、逆に、理不尽な現実に打ち克つための殆ど唯一の道であり得るはずなのだ。櫻井朔太郎が問いかけようとしていたのはそのようなことであるだろう。
校長の長谷部杏花が、生徒たち皆の努力を台無しにして人生をも狂わせかねない理事長の神谷龍之介の不正について触れていたが、一体どういうことだろうか。今のところよく判らないが、生徒たちが云っていた「卒業」のことではないかと推測しておく。
ところで。
この新ドラマ「太陽と海の教室」の舞台は、湘南海岸に面した進学校、湘南学館3年1組。そして今宵の第一話において櫻井朔太郎先生の対話を受け止めたのは、根岸洋貴(岡田将生)。水泳部のエースで湘南一のイケメンという設定だが、確かに美しかった。甘い顔立ちも、しなやかな身体も美麗だった。水泳の選手であるという設定が、この美しさを存分に際立たせて見せた。岡田将生のライヴァルと見られる「ハチワンダイバー」主演の溝端淳平が泥臭くて精力的な美男子だとすれば、岡田将生は爽やかな美男子。
根岸洋貴と同じく水泳部の選手として活躍した日垣茂市(鍵本輝[Lead])は今のところ普通に、青春ドラマの熱い登場人物の如し。彼は二〇〇六年十月五日放送の日本テレビ「教師ベタベタ物語」と題する学園ドラマのパロディにおいて「ごくせん」沢田パロディの沢田役を演じていて実に似合っていた。だから本来なら今年の「ごくせん」には彼が出演すべきだったわけで、今回このドラマに起用されたのを待望の人選と評価したい。
楠木大和(冨浦智嗣)も、表向きは受験勉強の鬼だが、実はもっと高校生活を楽しみたいらしいのが本音であると見受ける。川辺英二(山本裕典)については今後の展開を見なければならない。
今宵の第一話における生徒役の芝居で最も面白かったのは、櫻井朔太郎先生が三崎雅行(中村優一[D-BOYS])の髪のシャンプーの香を感じ取り、朝シャンプーをして来ているのか?と尋ねたとき、田幡八朗(濱田岳)も自身のアフロ髪を気にしていたところ。彼も髪型のことを何か云って欲しかったのだろうか。
湘南西高等学校の末吉春臣を演じた中村倫也は今回のみの出演だろうが、根岸洋貴を苛める嫌な男子を見事に表現した。余りにも見事で、本当に嫌な奴に見えてきた程。根岸洋貴や白崎凜久(北乃きい)相手に理不尽な要求を突き付けるときの、殆ど変態的なまでの、狂気をも感じさせる表情が恐ろしくもあった。なお、「中村倫也」という名は本年六月からの芸名で、それまでは「中村友也」の名で活躍していた。同じ芸能事務所に属する佐藤祐基佐藤智仁へ改名したのと同じく、改名したらしい。