学校じゃ教えられない!第九話

日本テレビ系。火曜ドラマ「学校じゃ教えられない!」。
脚本:遊川和彦。音楽:福島祐子&高見優。プロデューサー:大平太&桑原丈弥&井上竜太(ホリプロ)&太田雅晴(5年D組)。制作協力:ホリプロ5年D組。演出:木内健人。九限目。
灯愛学園社交ダンス部の十人は、先週の八限目において、大きな試練を乗り越えることができた。それを可能にしたのは、先々週の七限目までの七話の物語を通して、十人がそれぞれの抱える苦難、困難を全て解決して乗り越えてきたことの蓄積の力だったと云える。一部始終を見守ってきたのは同部顧問の相田舞(深田恭子)だったが、実は彼等の天敵のようにさえ見えた校長代理の影山盟子(伊藤蘭)もまた、特に前回の説明会において、十人の生徒たちの成長を認めることができていたに相違ない。だからこそ影山は、生徒会から睨まれて困難に陥った社交ダンス部のための支援を訴えた相田舞に対し、一見あたかも冷ややかに突き放すかのように、学園祭の運営のことは全て生徒たちに任せよ!と叱り付けることができたのだ。しかもこの、学園祭のことは生徒に任せよ!という言は、かつて生徒だった相田舞が、担任教諭だった影山に対して主張したことだったのだ。関連して云えば、影山が相田舞のことを「教師としてまだまだ半人前ね」と云ったことの意味も、同じ点から解することができるだろう。社交ダンス部のあの十人組であれば教師が敢えて救いの手を差し伸べなくとも自分たちだけで問題を解決できるはず!そんなことも理解できないなんて半人前ね!と影山は云いたかったわけなのだ。学園祭の舞台で精一杯のダンスを披露した十人組のために影山が他のどの観衆よりも真先に盛大な拍手を捧げたとき、その拍手は、社交ダンス部の男子と女子の十人だけではなく、かつて自身の教え子でもあった相田舞に対しても、捧げられていたに違いない。灯愛学園の教師と生徒の間の節度ある「愛」の関係が、こうして見事に繋がり伝えられているのだ。
十人組の成長は、彼等の気分を盛り上げてくれる最高に陽気な男子、西川叶夢(森崎ウィン)において最も著しい。もともと彼は元気であることだけが取柄のような、しかし肝心のときには今一つ頼りにならない男子で、そんなときには何時も大親友の「カズ」こと水木一樹(中村蒼)の助け舟を必要としていた。想い起こせば、社交ダンス部の十人組がこれまでの数々の苦難を乗り越えてきたのは、一樹と見城瞳(朝倉あき)の殆ど自己犠牲的なまでの奮闘の賜物だったと云うも過言ではなかった。しかし今、叶夢と横山永璃(仲里依紗)をはじめ、他の八人は各々自信を身に付けて、自力で問題に取り組める勢いを得ている。少し前までは皆に常に頼られ、特に叶夢からは何かある毎に「カズ!カズ!」と頼りにされていた一樹は、今、他の皆の奮闘を見守るような恰好になっている。特に、幼馴染みの、これまで常に一緒に過ごしてきた叶夢がこうして親離れならぬカズ離れをしてしまったことは、叶夢に密かに恋心を抱いていた一樹にとっては深刻な問題にならざるを得なかったはずだ。彼はできることなら叶夢を独占し続けたい想いだったはずなのに、叶夢には永璃という相性抜群の恋人ができてしまった上、これまでカズなしには何もできなかった叶夢が今や他の皆を主導して行動できるようになってしまった。事実上ゲイである一樹が「孤独には慣れている」のは自然なことだが、それでもなお、叶夢への密かな恋心のゆえに、この恋心に起因する独占欲に駆られるようにして、不本意にも、自身の真の学力には見合わない一・五流の灯愛学園へ入学してきた彼にとって、現在のこの状態は、「孤独への慣れ」だけではとても乗り越えようもない苦痛であると想像される。
ここにおいて彼が、灯愛学園を辞めてもっと本当に進学したかった高等学校へ入学し直すことを考えるのは、人生をよくするための選択であり得る。それが選ばれるべきであるか否かは、愛する人への己の愛が届かなかったことの敗北感と、本来の己の居場所からは劣ると感じられる場所に居続けることの敗北感に耐えてでも、眼前の仲間たち、ことに「相棒」の見城瞳と一緒にあることを選択するのがよいか否かによって決まるだろうか。
なお、校長代理の影山について考えておくべきことがある。影山は、かつて自身の教え子だった相田舞の高校時代の苦悩について知っているにもかかわらず、今や母校の教員として自身の部下ともなった相田舞の現在の行動については、一々厳しい。なぜか。推測するに多分、相田舞が自身の過去の失敗を踏まえ、生徒たちには成功して欲しいと願っているのに対し、影山は相田舞の過去の失敗を踏まえ、生徒たちには同じ過ちを繰り返さないよう導きたい考えなのだ。目的において一致しながら手段について正反対であるゆえの対立だったと要約して可だろう。