渡る世間は鬼ばかり第三十五話
TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:竹之下寛次。プロデューサー:石井ふく子。第九部第三十五話。
大井精機株式会社の社長の令娘、大井貴子(清水由紀)が、交際相手の小島眞(えなりかずき)の父である小島勇(角野卓造)の率いる曙オヤジバンドのため、マネイジメント業務に尽力している件について、大井精機創業家の大井家では再び、貴子の母である社長夫人の大井直子(夏樹陽子)と貴子とが大喧嘩をしていた。
ここにおいて今回も、貴子の弟である大井家長男の大井輝(大川慶吾[ジャニーズJr.])は貴子に加勢して母を批判した。当然だろう。なぜなら彼は、子は成人して職を得て一家を構えたなら、もはや親からは独立して生きるべきであると考えるからだ。だから彼は、母の直子が何時までも娘を支配し続けようとしていることに反発せざるを得ない。しかも彼は、直子が貴子を自らの命令に服従させるために小島眞をけしかけ、小島家に対する文句を小島眞に云わせていることに関しても、それがやがては小島家の人々を怒らせて折角の縁談をも破壊することになりかねないと分析した。本当に小島眞と結婚したいのなら母の云いなりになっているようでは駄目だ!という叱咤激励をも含意した言だったが、なかなか見事な洞察だ。実際その通りになりかけていたのだ。
とはいえ彼の分析には一点だけ、甘い点があったと云うべきだろう。それは小島眞という人物を過大評価してしまっているという点に他ならない。東京大学の学生として家庭教師に来てくれていた小島眞をかなり尊敬している様子の彼は、どうやら「小島先生」を独立自尊の精神の持ち主とでも思い込んでいるのか、もし姉の貴子の心に余計な迷いが生じるようなら「小島先生」に捨てられてしまうこともあり得るとさえ恐れているようなのだ。とんでもない。逆に小島眞こそ直子の云いなりになって、貴子に嫌われ捨てられかねないようなことをしたのだからだ。
神林清明(愛川欽也)が一人で寂しく生活している豪邸に本間英作(植草克秀[少年隊])の一家を迎え入れたいと云い出した。客観的に見るなら本間一家にとっても願ってもない申し出のように思われるが、英作を通じてそのことを知った本間長子(藤田朋子)はどういうわけか大いに怒って却下した。神林家に居候することになれば義母の常子(京唄子)の介護に加えて神林清明の面倒をも見なければならなくなる!というのが言い分で、なるほど理解できなくはない。現時点において神林清明は独身生活を営んでいるから当面は「面倒を見る」程のことはないはずだが、やがて要介護の状態にならないとも限らない。医師が医師を要しないわけではないし、介護の心配がないわけでもないのだ。濃い血縁があるわけでもなければ数多の思い出を共有しているわけでもない人のために無償の奉仕を強いられるというのは、不条理でさえあり、難しい(もっとも、神林家に常子の籍が入ったままであるなら、この奉仕は多額の財産を相続できる好機にもなることを見落としてはならない)。