テレマンの証券取引所組曲

十八世紀ドイツ帝国自由都市ハンブルクの音楽家テレマンの序曲(管弦楽組曲)全曲を収録する予定のCD集の第二巻を聴いていたところ、二枚目に収録されている序曲変ロ長調「La Bourse」TWV55:B11の、オーボエ2本とファゴット弦楽合奏チェンバロによる明るく典雅な響に大いに魅了された。しかし「La Bourse」とは何のことか。「証券取引所」と訳してよいのか。第一楽章のフランス風序曲(ouverture)のあとに続く五つの楽章にはそれぞれ標題が付いているので、試みに訳しておこう。
第二楽章「休息の中断」(Le repos interrompu)、第三楽章「平時の戦乱」(La guerre en la paix)、第四楽章「征服された征服者たち」(Les Vainqueurs vaincus)、第五楽章「孤独な者たちの団結」(La Solitude associee)、第六章「ミシシッピにかける希望」(L'Esperance de missisippi)。
なるほど、これはどうやら十八世紀初頭のフランスにおける財政総監ジョン・ローの経済政策によって引き起こされたバブル景気を風刺したもののようだ。テレマンはフランス音楽に心酔してはいたが、フランスに対する辛辣な眼差しの持ち主でもあったのか。とはいえ最終楽章が「ミシシッピの希望」であるから、これはミシシッピ事業の挫折(所謂バブル崩壊)のあとの、事業の再建までを描いたものと解すべきだろうか。