ラブシャッフル第五話

TBS系。金曜ドラマラブシャッフル」。第四話。
脚本:野島伸司。主題歌:アース・ウィンド・アンド・ファイアー「Fantasy」。挿入歌:バングルス「ETERNAL FRAME」。音楽:神坂享輔&MAYUKO&井筒昭雄。プロデューサー:伊藤一尋。制作:TBSテレビ。演出:土井裕泰
宇佐美啓(玉木宏)は、かつて香川芽衣貫地谷しほり)が愛してくれた「キラキラ」とした自身の魅力を取り戻したくて、芽衣の父の経営するIT企業の課長を辞した。啓はそれを芽衣が喜んでくれることを期待していたが、実際には、身勝手で世間知らずであると責められた。だが、啓が本来の「キラキラ」とした魅力を曇らされていたことの原因の主な一が芽衣の父の会社に就職させられて分不相応にも管理職にまで位置付けられたことにあるというのは、誰の眼にもそう見えたが、芽衣の考えでもあったように思われる。そう考えれば意外とも云える芽衣のこの反応の意味は何だろうか。
先ず考えるべきは、啓はどこまで本気であるのか?という点だ。彼は、芽衣への愛を貫くためには職も住居も失っても構わない!と本気で考えていたのだろうか。なぜなら当初の(第一話における)彼の姿勢はそれとは逆だったのではないかと思われるからだ。思い出しておこう。芽衣から婚約の解消を告げられた直後、芽衣の兄は彼に対し、もし婚約を解消するなら香川家の父は喜んで会社からも解雇を告げるだろうこと、そして当然ながら香川家の提供する住居からも追い出されるだろうことを予告した。それを聞いて啓は慌て、何とか芽衣との関係を修復しようとした。彼が著名な一流企業に就職できたことを彼の母は喜んでいて、彼は母を悲しませたくなくて、解雇されるのを何としても避けたかったのだ。あの時点で彼は、芽衣との愛よりも現在の社会的地位の維持のために必死になっていたように見えた。そうであれば芽衣への愛のために会社を辞職するに至った現在の逆転現象は、現在の地位の維持という目的のために芽衣を引き止めようと必死になる余り、逆に現在の地位を投げ捨ててしまう大胆の挙に出たもの、云わば目的と手段を取り違えたものと解することができるのかもしれない。
他方、芽衣が啓の本来の魅力(と思われるもの)を「キラキラ」と形容したことの含意は今や明白だろう。芽衣は啓をアイドルとして見て憧れていたのだ。古来アイドルは恋もしなければトワレにも行かないと形容される(そうしたアイドル像を打ち破ったのが平成初期のSMAP木村拓哉だった)。芽衣は、現実世界で生活を営んで苦労している啓の姿を見たくはなかったのだろう。パソコンの操作一つもできもしないのにIT企業の課長にさせられて上司にも部下にも無能扱いされている彼の疲れ切った様子を見るのが辛いのではなく、そもそも現実を地味に生きている彼の生身の等身大の姿を見るのが辛いのだろう。そうであれば転職したところで事態は好転しないはずだ。どんな仕事でも、仕事は仕事にしかならないからだ。そうであれば、どんなに辛くとも、芽衣の父の会社に勤務し続けておけばよかったのだ。芽衣はそう考えていたのではなかったろうか。
婚約を解消すれば会社から解雇される…というのは芽衣の兄が予告していることであって決定事項ではないし、芽衣はそのことを知らない。
逢沢愛瑠(香里奈)と宇佐美啓との関係は、少し前までは友人のようだったが、今や恋人のようにしか見えない。啓の側には変化はないが、逢沢愛瑠の側が変化している。大石諭吉(DAIGO)と交際したときと同じく単なる同情によるものなのか、それとも同情からではない情であるのか。