月九ヴォイス第七話

フジテレビ系。月九ドラマ「ヴォイス 命なき者の声」。第七話。
脚本:金子茂樹。音楽:吉川慶&Audio Highs。主題歌:GReeeeN「刹那」。プロデューサー:瀧山麻土香&東康之。制作:フジテレビドラマ制作センター。演出:松山博昭。
今回の死者は、路上で亡くなっていた野間口静代(赤座美代子)。事件性こそ認められないものの、謎の死ではあった。その直接の死因は不慮の事故だったが、それ以前から既に癌に侵されていて、残された月日は短かったらしい。遺族は、夫の野間口功(石橋蓮司)。夫は寡黙な靴作りの職人で、日常生活のことに疎かった。そのことをよく知る妻は、己の死期の近付きつつある中、己の死後の夫の生活を心配し、家事を少しでも楽にしてやりたくて家電製品等を使い易いものに買い換えたり、寂しさを紛れさせるため(妻自身は犬嫌いだったのに)犬を飼い始めたり、夫の大好物の肉豆腐を心ゆくまで食べさせたくて毎日のように拵え続けたりしていた。そうして色々配慮して一通り準備し終えた直後、逝去した。
今宵の話に関して特筆すべきは、加地大己(瑛太)の大胆推理(或いは妄想)によって謎が全て解き明かされたわけではなかった点だろう。むしろ、解剖によって遺体を傷付けることを拒絶していた夫に対し、解剖によってのみ解かれ得る謎が存在することを大胆推理によって明らかにし、遺体に残された謎を解くことによってこそ亡き妻の思いが明らかになるのかもしれないことを主張して、頑なだった孤独な夫の心を動かした。法医学専攻の学生たちを描いているこのドラマにあって初めて法医学がそれなりの役割を果たし得た一話だったと云ってよい。
夫が妻の遺体の行政解剖を受け容れるに至るまでの間の、加地大己等の厚かましさ、押し付けがましさこそは何時も通りではあったが、それはそもそもの設定の問題であるしドラマ自体の基本性格でもあるから不問に付しておくしかない。
ともかくも、今宵の第六話が思いのほか味わい深いものになり得たのは、靴作りの頑固な職人、野間口功という役を演じた石橋蓮司の演技が余りにも味わい深かったからに他ならない。寡黙な、無愛想な言動の内に、永年一緒に過ごしてきた妻への愛情が満ちていた。最期まで夫のことだけを心配していた妻の遺体に、彼が「俺のことを心配する前に、てめえの体のことをもっと心配しろ!」と叱って泣いた場面には、流石に涙が出た。このドラマを見て不覚にも涙が出たのは初めてだった。