仮面ライダーディケイド第九話

東映仮面ライダーディケイド」。
第九話「ブレイドブレード」。脚本:米村正二。監督:石田秀範。
先週と今週の二週にわたるもう一つの「仮面ライダー剣」の世界が、男同士の愛を熱く描いて結ばれた。実に「仮面ライダー剣」に相応しい。
仮面ライダーシステムを使用して不死の怪物「アンデッド」を退治することを業務とする大企業、株式会社ボード。同社の最上級の「エース」として仮面ライダーブレイドに変身して活躍していた剣立カズマ(鈴木拡樹)は、現場において業務よりも人命救助を優先した件を業務から逸脱した行為として責められ、降格されて最下層まで転落し、同社の社員食堂の見習い店員として働き始めていた。
この社員食堂で「チーズ」ならぬチーフをつとめる仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)は、挫折感のゆえに職場から逃げ出しそうになっていた剣立カズマに対して、冷たく突き放すようなことを云い、或いは出世競争の非情についても述べた。剣立カズマは直ぐには納得ゆかない様子だったが、小野寺ユウスケ(村井良大)は、門矢士の冷たい言の裏には何か「深い考え」があるに相違ないと云い、決して挫けてはならないこと、仲間を見捨ててはならないことを熱く訴えた。彼の熱い眼差しによって目を覚まされて剣立カズマは門矢士の冷たい言の奥の愛に気付き、信頼を深めたが、門矢士本人はどうやら小野寺ユウスケが云う程の「深い考え」を持ち合わせていたわけでもなさそうな様子だった。
小野寺ユウスケや剣立カズマの、門矢士に対する愛と信頼は、過大評価に基づく単なる勘違いに発したものだったのだろうか。門矢士は本当に出世と昇給への野望に燃えていただけなのだろうか。多分そうではない。何事にも抜きん出た能力を発揮できてしまう門矢士は、株式会社ボードのような実力主義の組織に入れば無論その流儀で最大限の実力を発揮できてしまえるが、それを本気で信じているわけではないだろう。思うに、門矢士をどこまでも信じたい小野寺ユウスケは、門矢士自身の気付いていなかった門矢士の思いを探り当てて、門矢士自身に気付かせたのではないだろうか。その証拠は、仮面ライダーディケイド仮面ライダーブレイドとの共闘の場における門矢士の、剣立カズマについての言にある。門矢士もまた、剣立カズマ自身が確とは自覚していなかった剣立カズマの信念を剣立カズマに代わって言語化し、剣立カズマ自身に気付かせたのだからだ。
関連してもう一つ押さえておくべき点がある。
色々楽しかった今朝の話における大きな見所の一つは、社員食堂の経営を立て直すための門矢士の策が図らずも「会社は誰のためのものか」という問いをめぐる一つの主張でもあった点にある。この問いは、昨年の七月に放送されたNHK土曜ドラマ監査法人」の最終話における問題提起でもあった。門矢士が自身の提案した安くて美味の定食を「社員みんながエース」と命名したのはその答えだ。過度の競争を煽って却って社内に無用の抗争や不信や不安を生じるよりも、社員が皆それぞれの任務を守りつつも相互に仲間として助け合うことこそが、社員の能力を最大限に引き出して延いては業績の上昇をも可能にするはずであるとの信念がそこにあるだろう。
社員食堂の集客力を高めるための「客寄せパンダ」として、小野寺ユウスケにホストクラブのホストみたいな恰好をさせて働かせるという門矢士の策も面白かったし、小野寺ユウスケの新たな魅力を引き出すことにも成功していたと思う。普段のあの身体の線を隠すかのような服装では見えるはずもない細身の身体のフォルムが窺えて一寸よかった。
株式会社ボードの経営を永く維持してゆくためにはアンデッドとの共犯関係や新アンデッドの製造も必要だったのだ!という株式会社ボード代表取締役社長、四条ハジメ(累央)の言い分は、明らかに正義に反しているとはいえ、経営者としての苦渋の決断という側面もあるのかもしれない。そう考えると悲しい。それにしても、株式会社ボードの最高機密とされるアンデッド工場において最強アンデッド「ジョーカー」製造のためのモデルにされた仮面ライダーギャレン=菱形サクヤ(成松慶彦)と仮面ライダーレンゲル=黒葉ムツキ(川原一馬)はあのあと一体どうなったのだろうか。