仮面ライダーディケイド第二十話

東映仮面ライダーディケイド」。
第二十話「ネガ世界の闇ライダー」。脚本:井上敏樹。監督:田崎竜太
九つの仮面ライダー世界をめぐる奇妙な旅を終えた門矢士(井上正大)と小野寺ユウスケ(村井良大)と「夏みかん」こと光夏海(森カンナ)の一行は、光写真館主人の光栄次郎(石橋蓮司)とともに無事「元の世界」へ帰還した。とはいえ、そこは夏みかんにとっては「元の世界」に違いないのだろうが、門矢士とユウスケにとっては「元の世界」ではない。ユウスケは門矢士と一緒に旅をするために本来の自身の世界を捨ててきたのだし、門矢士に至ってはどこが自身の本来の居場所であるのかも判ってはいない。
夏みかんが門矢士と一緒に奇妙な旅へ出たのは、本来の自身の居場所であるこの世界が何者かによって破壊されてしまったからだった。予言者の鳴滝(奥田達士)に云わせれば、世界の破壊者とは仮面ライダーディケイド=門矢士に他ならないが、夏みかんにはそれは信じられない。そうであれば、門矢士は何者であるのか、ディケイドは何者であるのか、そして破壊者は何者であるのか。そうした謎を解くための旅でもあったろうか。
でも、九つの世界をめぐる旅は無事に完了し、夏みかんにとっての「元の世界」へ一行は帰還した。門矢士にとっては謎は何も解けていないし、彼に限らず誰にとっても謎は解けてはいないが、今の夏みかんは「元の世界」へ帰還したこと自体に舞い上がってしまい、謎のことなんか忘れてしまったかのようだ。もちろん門矢士の苦悩のことなんか想像しようともしない。
舞い上がる夏みかん、落ち込んでいる門矢士。門矢士を慰め、盛り上げようとするユウスケの努力は何時ものように空回り。無事のようでいて意外に無事ではない。破壊された痕跡もなく、何事もなく平和であるかに見えるこの世界は、それでも確かに、矛盾を抱えているようなのだ。
無事と見えていた世界が実は意外にも既に破壊されていて、何一つ無事ではない世界だったことを露呈したところから今朝の話の後半は怒涛のような急展開を見せたわけだが、面白いのは、そうした破壊の徴候が既に冒頭、門矢士の撮影した写真に見えていた点だろう。彼の写真が初めて、焦点のボケていない普通の写真の体をなしていたのだ。ユウスケはそれを「この世界は、士がいるべき世界になったんじゃないか?」と推測したが、どうやら事態はもっと深刻だったようだ。門矢士の撮った写真が何時もの異常性を示さなかったことこそは世界の異常性の徴候に他ならなかった。
ところで、今朝のドラマには極めて印象深い画が幾つかあった。一つは、夏みかんが門矢士とユウスケを相手に高校時代の思い出を語る段、当時の仲間たちと一緒に作った秘密基地には「宝」も隠してある!と楽しそうに云った瞬間、この話を木蔭に隠れて聴いていた海東大樹(戸谷公人)が一人で密かに口元に笑みを浮かべつつ眼を輝かせたところ。
もう一つ、もっと印象深かったのは、夏みかんを見送ったあとの門矢士とユウスケとの会話に、唐突に鳴滝が割り込んできたところの画。目まぐるしい画面の転換の連続の中で門矢士とユウスケとの位置関係も俄かに見失ってしまい、頭がクラクラしてきそうな感覚をさえ覚えた直後、門矢士とユウスケばかりか視聴者をも驚かすような勢いで鳴滝が出現し、同時にその瞬間、三人の位置関係が正確に判明するという奇妙な映像表現。制作者たちの一寸した遊びだったのかもしれないが、この「夏みかんの世界」における平凡な日常の中の根本的な異常性の露呈を予告するかのような実に面白い画だったと云えるだろう。
それにしても、ユウスケに対する門矢士の仕打は相変わらず酷いが、ユウスケはそれを何とも感じていないばかりか、門矢士を心配してどこまでも付いて行こうとする始末。でも、途中で事件に巻き込まれて突然はぐれてしまうのも何時もの通り。