BOSS第九話

フジテレビ系。木曜劇場「BOSS」。第九話。
脚本:西平晃太。演出:星野和成。
慶政大学の心理学科教授の西名亘(生瀬勝久)を巻き込んで次々に殺人事件を実行していた彼の弟の西名啓介(虎牙光揮)が、実は彼自身の内面にしか生きていなかったという事実が、視聴者に衝撃を与えるような仕方で明かされた。
これと似た趣向によるドラマ作品の最近の例としては本年二月二十六日放送のNHKドラマ8Q.E.D.証明終了」第八話を挙げてよいかもしれない。あの話の場合、犯人は己があたかも単なる目撃者に過ぎないかのように思い込んでいて、それは己の罪を糊塗するための虚言が生来の被害妄想の癖に起因する見事な妄想をも誘発して記憶の書き換えを完成してしまっていた結果と解されるが、今宵のこの話の場合、西名教授は解離性同一性障害の状態にあった。「Q.E.D.証明終了」第八話に比べると凄みには欠けるが、心理学の優れた研究者であり教育者であり診断者、治療者でもあるはずの者が、己の心理については全く診断できていなかったという点は「心」の難しさをよく表していて、そこが面白かったと云えるかもしれない。
意外な真相を受け容れることができなかったのが他ならぬ西名教授その人だが、受け容れることができない点は二つあるだろう。一つは、己が共犯者なんかではなく唯一の犯人だったということ。もう一つは、弟が既に亡くなっていたということ。
警視庁刑事部捜査第一課特別犯罪対策室長の大澤絵里子(天海祐希)からこの受け容れ難い真相を聴かされたときの西名教授の、あたかも現実に抵抗しようとするかのような表情と悲鳴がこの話に深みを与えたと思う。これを演じた生瀬勝久が一年前のドラマ「あしたの、喜多善男」では逆に、喜多善男の内面の別人格について解明する側を演じていたことをも想起せざるを得なかった。
ところで、岩井善治(ケンドーコバヤシ)は捜査の過程で工場において作業員の若い男への聞き込みをした際、上着を脱いだその男の身体を見て興奮しながら「ええ体してるやないの…」と心の中で呟きいていた。確かに物凄く「ええ体してる」ように見えた。ところが、今その場面を録画で見直して確認したところ、それ程「ええ体」ではなかったと気付いた。身体の印象の美というのは身体の動作とか状態とか衣服からの露出の程度とか明暗の具合とかに左右される面があるのだ。

あしたの、喜多善男 ~世界一不運な男の、奇跡の11日間~ DVD-BOX(6枚組) バラード NHK TVドラマ「Q.E.D.証明終了」BOX [DVD]