仮面ライダーディケイド第二十七話
東映「仮面ライダーディケイド」。
第二十七話「BLACK×BLACK RX」。脚本:米村正二。監督:金田治。
門矢士(井上正大)は、「仮面ライダーBLACKの世界」における南光太郎(倉田てつを)に「大ショッカーはどうやって世界を超える力を得た?」と訊ね、南光太郎は「何者かが世界を繋ぐ橋を作った」と答えた。
世界を繋いだ者は誰か。それがもし複数世界の仮面ライダーたちの力を結集することのできる「仮面ライダーディケイド」という力であるなら、予言者の鳴滝(奥田達士)がディケイドを「世界の破壊者」と呼び、何でも全てディケイドの所為にしていたのは意外にも正しかったことになる。そう考えるとき、今回の彼の「ついに大ショッカーが動き出したぞ。これも全てディケイドの所為だ!」という言には何時になく真実味を感じることができる。しかしディケイドよりも先んじて複数世界を旅し、各世界の住人に異世界の存在を知らせてきた鳴滝自身の責任はどうなるのか?とも思わざるを得ない。
ところで、先週の第二十六話では門矢士と小野寺ユウスケ(村井良大)と海東大樹(戸谷公人)との三人の関係が改めて描かれた感があったが、今週の第二十七話ではさらに「夏みかん」こと光夏海(森カンナ)をも加えた形で改めて描かれた。夏海にとって門矢士は、戦いからの無事の帰りを祈りながら待ち続けるべき相手であり、特別な人であるのが明らかだが、今や門矢士にとっても、夏海は帰りを何時までも待ってくれるに違いない特別な人であるに違いない。門矢士が夏海の生命を救うために己の生命力の一部を分け与えたとき、門矢士の生命を心配したユウスケに対し、門矢士が「夏海には云うなよ」と云ったところにそれはよく表れていよう。このとき彼は「夏みかん」ではなく「夏海」と呼んだのだ。もっとも、今後も夏海自身の前では相変わらず「夏みかん」呼ばわりを続けるのかもしれないが、少なくとも門矢士の本心においてはその人は単なる女友達のような「夏みかん」ではなく、己の生命を犠牲にしてでも守りたい大切な人「夏海」であるに違いない。
ユウスケも夏海を大切に思っているし、夏海もユウスケを大切に思っていることは今までに(特に「仮面ライダーアギトの世界」や「仮面ライダー電王の世界」において)描かれてきたが、両名の関係は姉と弟(或いは頼りない兄と確り者の妹)の関係を連想させる。夏海が再生したときユウスケは喜んで夏海に抱き付いたが、両名ともそのことに性的なものを全く感じてはいないと見える。そしてユウスケが夏海の無事を無邪気に喜んでいた間、夏海は門矢士と熱く見詰め合っていたのだ。
海東大樹の姿勢は一直線。彼は門矢士だけを見ている。しかし門矢士はユウスケを絶対的に信頼し、夏海を大切な人と見ている。海東のことなんか大して見てはいない。海東には我慢ならぬ状態だ。「そんなに夏メロンが大事か?」と怒って去る彼を見送りながら門矢士は「夏みかんだ」と呟いたが、多分、海東は本気で「夏みかん」を「夏メロン」と間違えていたわけではなく、敢えて間違えてみせることで、“夏みかんなんか興味を持つには値しない”と云いたかったのだろう。ユウスケを軽蔑するのと同じことだ。海東は、彼が門矢士のことしか見ないのと同じように門矢士にも彼のことだけを見ていて欲しいのだ。夏海の生命を救うために必要な、大ショッカー幹部アポロガイスト(川原和久)のパーフェクターを彼が門矢士から盗み取ったのは、単にそれが宝物であるからではなく、門矢士から見詰められたいからに他ならない。その宝物を門矢士の手に譲り渡すとき「受け取り給え。ただし、これからはちゃんと、僕を見ていてくれよ」と彼が云ったのは、門矢士に対する愛の告白にしか聞こえなかった。