華麗なるスパイ第四話

日本テレビ系。土曜ドラマ華麗なるスパイ」。第四話。
脚本:君塚良一。演出:岩本仁志
今宵の第四話には色々見所があった気がする。内閣情報室秘密諜報部員の鎧井京介(長瀬智也)と、少女テロリスト集団との間の、水中での銃撃戦が面白い趣向だったし、彼の出生の謎も深まりを見せた。彼の父は内閣総理大臣の吉澤総一郎(渡哲也)であるのか、それとも逆にテロールを仕掛けるミスター匠(柄本明)であるのか。
しかし今宵の話を盛り上げたのは、舞台が名門男子高等学校の水泳部で、夏に相応しい学園ドラマにもなっていたことだろう。云わば一夜限りの「イケメンパラダイス」だった。
事件の舞台は美南学園。同窓会の名誉会長に吉澤内閣総理大臣を推戴する名門男子高等学校。驚くべきことにドロシー(深田恭子)も同校の水泳部の卒業生で、当時の名は「ケンシロウ」だったらしい。そしてミスター匠の狙いは同校の在校生で水泳部エースの山口徹(増田貴久)。十六歳。実は吉澤内閣総理大臣の隠し子の一人。彼とともに水泳のリレー選手をつとめる仲間が達夫(鈴木裕樹)、光司(八戸亮)、一平(加藤康起)の三人。
青春学園ドラマの常として仲間同士で助け合うことの大切であることが描かれたが、このドラマに凄みがあるとすれば、彼等四人組の絆を利己的なものとして設定した点にある。達夫も一平も光司も、リレー仲間としての徹を必要としているが、それは水泳選手としての実力の乏しい彼等三人が競技会で優勝するためには五輪日本代表級の実力を持つ徹が不可欠であるからに過ぎない。これまでも彼等は幾多の大会において徹一人の力で優勝し続けてきたのだ。徹はそこに彼等の利己主義を感じ、恐らくはそこに友情の欠如をさえも感じ取って、次第に距離を置き、仲間なんか信じることなく常に一人で行動するようになったわけなのだろう。
徹が三人と和解したのは、少女テロリスト集団から挑まれて応じたリレー競争で、水泳選手として初の敗北を知って、己一人の力だけで勝てるとは限らないことを知ったからだが、注意しなければならないのは、たとえ彼一人の力だけで勝てるわけではないとしても、やはり、彼一人の力を欠けば彼等三人ではどう頑張っても勝てるはずもないという条件が変化したわけでもないという点だ。彼一人に対する三人の依存の関係が変化したのではなく、単に、彼一人の力で勝ち続ける云わば一人勝ち体制が崩壊して、それでもなお三人が負けた彼を見捨てなかったというだけの話なのだ。要するに、利己主義的な関係の奥に真の友情が潜んでいたのではなく、利己主義的な関係が友情をも伴っていたのだろう。
少女テロリスト集団が普通の女子高校生に扮して沢山の料理を携えて美南学園水泳部を訊ねてきたとき、水泳部員の殆ど全員が大いに盛り上がっていた中、徹一人だけはその祭のような盛り上がりの輪から離れて一人で過ごしていたが、達夫等三人は彼を心配し、声をかけた。三人が徹を心配するのは、徹なくしては彼等三人の優勝もあり得ないことをよく自覚するからではあるが、徹に対する声のかけ方、接し方において彼等の見せる友情のような感じにも嘘はないに違いない。なかなか難しい関係ではある。