旅行記二板橋区立美術館開館三十周年記念英一蝶御赦免三百年記念展

五連休の二日目。旅行記二。
朝七時半頃に起きて、テレヴィを点ければ東京メトロポリタンテレビジョン西部邁東谷暁とともに当世流行の「地域主権」論や構造改革派経済学者の矛盾について論じていて面白かった。しかも脇に座していたのは芸術家の秋山祐徳太子なのか。仮面ライダーWを見て、暫し寛いだあと、十一時半にホテルから外出。
御徒町から巣鴨を経て西高島平へ。赤塚公園前の食堂で昼食を摂ったあと、昼一時頃に板橋区立美術館へ。現在開催中の英一蝶展を観照。正式な展覧会名は「江戸文化シリーズ25 御赦免300年記念 板橋区立美術館開館30周年記念 一蝶リターンズ 元禄風流子 英一蝶の画業」。なるほど配流先の三宅島から帰還して三百年で、しかも同館の開館三十年なのか。凄い年だ。「朝暾曳馬図」や重要文化財「布晒舞図」をはじめ愛らしい傑作が並んでいた。江戸の遊郭を描いた絵も楽しいが、農村の風俗を描いた絵は、何というか愛らしい。特に子どもたちの姿が面白い。
展示室内では、作品名を解り易い現代語に翻訳して解り易い解説を付けるのは同館では馴染みの試みだが、この解説文の脇に、同館蔵の英一蝶筆「一休和尚酔臥図」の一休和尚が登場して、この解説文そのものに対してもツッコミを入れているのは素晴らしい。というのは、江戸時代の庶民にとっては普通の感覚だったことが現代では「差別」とか「虐待」とか受け取られる場合もあるので、そこのところは時代の懸隔による文化の差を踏まえて冷静に見てゆく必要があるわけだが、それを一休和尚が全て引き受けてくれているのだからだ。隠蔽せず問いかけることが、文化理解の第一歩だろう。
どうでもよいところで私的に物凄く気になったのは、「鉢廻図」に登場する少年男子の腹。太神楽を見て大喜びの彼は、夏の暑い日であるのか、裸同然の格好をしていて、その腕や脚は細いながらも意外に肉付きのよい感じで、しなやかな動作が印象深く、なかなかの美少年と見えるのだが、腹だけは中年男のように丸々としているのだ。西洋では六つに分かれた腹筋を英雄的な理想とするのに対して東洋では太鼓腹を理想とするのだろうが、それにしても、この美童の太鼓腹の意外性を見ていると、現代の食生活との差も考慮して「実は栄養失調か?」と心配にもなってくる。
板橋区立美術館を三時頃に出て、西高島平から大手町を経由して竹橋へ。東京国立近代美術館では「ゴーギャン展」を見るのを諦めて平常展「近代日本の美術」を足早に観照。今村紫紅の「笛」という作品を初めて見たが、新たな収蔵品だろうか。よい絵だ。高取稚成の「藤房卿の草子」も久し振りに見た。近代の宮廷画家である稚成は、伊予松山藩主の久松松平隠岐守に仕えた住吉派の画師遠藤広実の子として江戸に生まれて住吉家を継承した住吉広賢の門人であると記憶する。
閉館時間の五時に館を出て、竹橋駅から大手町駅、東京駅を経て上野駅へ。駅前の食堂で早めの夕食を摂って、御徒町の商店街を眺めてホテルへ戻った。