オルトロスの犬第九話=最終回

TBS系。金曜ドラマオルトロスの犬」。第九話=最終回。
この番組の名称にある「犬」とは、今宵の話の最後の、いかにも三年B組金八先生が歩いてきそうな河原の土手の上に置かれていた段ボール箱の中の、あの捨てられた小犬のことだろうか。それとも、次期内閣総理大臣候補と目されていた族議員の「犬」として奔走し暴走した挙句その議員から見放されて一切の権力を失い、単なる犯罪者として逮捕され、文字通り「捨てられた犬」のように惨めだった警察庁警備企画課理事官の沢村敬之(佐々木蔵之介)のことだろうか。何れにせよ云えることは、先週の第八話まではドラマ世界を満たしていた大勢の悪人が、今週の第九話に至って悉く改心し別人のように善人と化し、或いは正義の味方にさえも化して、気付けば彼一人だけが唯一の悪人だったかのように見えたということだ。
とはいえ忘れてはならない。もう一人、かなりの悪人がいることを。もちろん「神の手」(ゴッドハンド)を持つ竜崎臣司(滝沢秀明)のことではない。彼の実の弟の、「悪魔の手」或いは「鬼の手」を持つ「碧井先生」こと碧井涼介(錦戸亮)に他ならない。思えば彼は何と多くの人々を殺害したことだろうか。もっとも彼が殺害した相手は何れも悪人ばかりではあるから、彼の罪を強く咎める気にはならない。でも、彼自身の心の問題はどうなのか。心の中に底知れぬ暗い闇を抱えたままで、教育者としてやってゆけるのだろうか。
警察機構を意のままに操り得た族議員で次期内閣総理大臣の最有力候補でもあった社会厚生大臣の榊遥子(高畑淳子)は、事件後、自ら身を退いたのか、それ以前に責任を追及されたのか、与党から独立して権力を捨て、無所属議員として再出発した。政権交代の波を上手く乗り越えることはできたろうか。二宮健(六角精児)は少しばかり警察魂を見せることはできたが、路上生活を脱出できるわけではないだろう。もっとも、これを言い出せば最も気になるのは竜崎臣司の生活だろう。彼は唯一の特技だった「神の手」を喪失したのだ。不況の下、どうやって生計を立ててゆくのか。
不気味な存在感を漂わせながら入場した巽史明(平田満)が何の存在感もなく退場したことに加えて、竜崎臣司のDNAを調査して意外に普通の人間と異ならないと結論付けた吉住正人(忍成修吾)自身も、期待された程には狂人でもなく意外に「普通の人」だったことも、忘れない内に記しておこう。