仮面ライダーW(ダブル)第十四話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第十四話「レディオのQ/生中継大パニック」。
脚本:長谷川圭一。監督:石田秀範。
左翔太郎(桐山漣)は、何か物思いに耽っているときの相棒フィリップ(菅田将暉)に、何を思っているのかを訊ねることは、心の中に土足で上がりこもうとするにも等しい暴挙であるということをよく知っていて、慎重に接する必要があると弁えているが、翔太郎とは対照的に何事にも豪快で無神経な鳴海亜樹子(山本ひかる)は、あっさり土足で上がりこんでしまった。ところが、翔太郎と亜樹子との間の、どんな些細なことでも喧嘩の種にしてしまう賑やかな関係が、容易に、フィリップを憂鬱な物思いから解き放ち、笑顔を取り戻させてしまったのだ。
翔太郎とフィリップは、二人で一人の名探偵、二人で一人の仮面ライダーだが、案外、フィリップにとっては翔太郎と亜樹子も、精神に安らぎを与えてくれる二人で一人の「癒し系」になっているのかもしれない。
フィリップが物思いに耽っていたのは、風都のアイドル「若菜姫」こと園咲若菜(飛鳥凛)に重大な謎があることを察知したからに他ならない。他方、若菜姫の側もまた、街の名探偵フィリップが自身にとって特別な存在である可能性を感じている。しかし二人とも互いに相手が何を感じているかを確とは知らないようだ。両者それぞれの思いを全体として把握できているのは視聴者だけだろう。だが、二人それぞれの思いを安易に総合する前に、先ずはそれぞれの思いを整理しておく必要があるだろう。
フィリップが察知したのは、(1)強大な威力を誇るクレイドール・ドーパントの手の感触が若菜姫の手の感触と同じであること、(2)若菜姫が、一般の市民であれば知らないはずのガイアメモリの存在を、たとえ自身が所有しているわけではないとしても、少なくともそれが存在するということだけは確かに知っているらしいこと。そして何よりも重要なこととして、(3)若菜姫の手の感触を含め、若菜姫の何もかもがフィリップにとっては何かしら特別に大切な、愛すべきもののように思われること。
他方、若菜姫は、(1)未だフィリップの顔さえも見たことがなく、声と手の感触しか知らないにもかかわらず、彼の言動や存在感の全てが、いなくなった最愛の弟によく似ていることを感じているが、反面、(2)彼の手の感触が仮面ライダーWの右手の感触と同じであることには気付いていない。
気になるのは、フィリップが若菜姫の前に自身の姿を現そうとしないのはどうしてか?という点だ。まるで若菜姫の正体を知っているかのような行動だが、無論そんなはずはない。では、なぜか。心から愛するアイドルとは直には対面したくない!と感じているだけなのだろうか。否、むしろ、最初に若菜姫が鳴海探偵事務所に現れたときフィリップは、近付いてくる気配に何かしら漠然と危険な力を感じ取って、理由も解らないまま姿を隠してしまって、それ以来、姿を見せるわけにはゆかない気がしているのだろうか。何れにせよ、若菜姫が懐かしそうに語る最愛の弟が実はフィリップであるかもしれない可能性、そしてフィリップの記憶から失われた自身の「家族」の一人が若菜姫であるかもしれない可能性をフィリップは今のところ考えようとはしていないと見受ける。視聴者が思う程には、謎は未だ解明されてはいない。
園咲家の当主、園咲琉兵衛(寺田農)は、次女の若菜がクレイドールのガイアメモリを捨てたのを見て微笑していた。幼少期の優しさを取り戻した様子であると感じて、嬉しかったのだろうか。だが、幼少期の若菜の優しさは、いなくなった弟の優しさに支えられていたのだ。かつての優しさを取り戻したのは、かつての弟によく似た何者かが今どこかに現れたからではないか?ということを、彼は察知するのだろうか。園咲家の長女、恐らくは次代の当主となるべき園咲冴子(生井亜実)が密かに妹を助けたのは、夫の園咲霧彦(君沢ユウキ)が云ったように「園咲家にとって危険な要素は全て消去する」必要があるからだろうが、同時に、これも夫の霧彦が云ったように、意外に妹のことを心配してもいたのだろう。そして婿養子の霧彦は、妻の指示を受けて、義理の妹を助けるため、義理の妹を苦しめていた悪女を懲らしめ、風都から消去すべく、颯爽と行動した。こんなにも恰好よい霧彦は久し振りだろう。
仮面ライダーWがヴァイオレンス・ドーパントに誘拐されていた若菜姫を救出したとき、若菜姫は「ありがとう!仮面ライダー!」と云って感謝を表した。仮面ライダーが街のヒーローとして認知され、愛され、期待され始めていることを物語るこの言葉に、仮面ライダーWに変身中の翔太郎は「おっと…今のは何かグッとキタぜ」と呟いたが、もちろん視聴者も「グッとキタ」。