NHKとめはね第三話

NHKドラマ8とめはねっ!鈴里高校書道部」。第三話。
今週も楽しめたので、私的に特に楽しめた場面を二三、覚書として。
鈴里高等学校書道部員五名と、ライヴァル校の鵠沼学園書道部員大勢で、禅寺に集結して合同の夏合宿。その初日の夜、女子たちが両校交じって大勢で枕を並べて、まるで修学旅行の夜のように楽しく騒いでいたとき、両校合わせても二人しかいないらしい男子たちは、広くて閑散として、しかも既に消灯して暗い室内、一人の女子をめぐり恋の話をしていた。
先の書道パフォーマンスのとき鈴里高校の大江縁(池松壮亮)は同級生の望月結希(朝倉あき)の書いた「○」について「望月さんの書いた○が好きだから」と云ったが、それは事実上「望月さんが好き」としか聞こえなかった…と鵠沼学園の勅使河原亮(中村倫也)は問い詰めた。確かに彼の云う通りだ。視聴者の誰もがそう感じたことだろう。
このように問い詰めた勅使河原亮も、書道部員らしからぬ望月結希に心惹かれ、大江縁を手強い恋敵になるかもしれぬと感じているのと同時に、恐らくはむしろそれ以上に、大江縁に未成の才能を見出し、強力なライヴァルの出現を予感しているのだろう。もちろん大江縁の側こそ「イケメン」勅使河原亮のことを恋においても書道においてもとても勝ち目のない恋敵と見ていて、ゆえに元来の気弱な口調はさらに気弱になるばかり。
だが、この場面の妙味は、今にも泣き出しそうな表情の大江縁に勝るとも劣らず勅使河原亮も繊細な口調で語っていたところにある。攻撃する側の勅使河原亮と、誤魔化して逃げる側の大江縁と。立場は対照的だが、ともに口調も仕草も所々微妙に乙女風になっていて、そのことがこの場面をどことなく妙にエロティクでさえある味わいあるものにしていた。
望月結希が勅使河原亮と一緒に仲よく稽古しているところを偶々目撃した大江縁が、まるで絶望したかのような悲しそうな顔をする場面は今回もあった。しかも湯上りの彼は、タオルを頭に巻いて、まるで湯上りのマダムのような変な格好だったのだ。マダムみたいな格好をして、暗い絶望の表情を浮かべる少年…という絶妙な場面が出来した。
他方、それと対を成すのは、勅使河原亮が二人の稽古を見て感心し、ゆえに焦ってもいたに相違ない場面。しかも今回、二人は書家の三浦清風(高橋英樹)から直々に特別の指導を受けていたのだ。「○」や「△」を書かせるその遣り方が、下手な両名に対する訓練であるかに見えてその実は特別に見込みある者への特別な指導方法に他ならないという事実に、勅使河原亮だけは気付いたのだろうか。彼も密かに二人の真似をして「△」を書いていたところが一寸泣ける。
もう一つ、忘れてはならないのは砂浜で遊んだ場面。望月結希は喜んで海へ走り、やがて始まったビーチバレー会では勅使河原亮と一緒に盛り上がっていたが、その間、遠くからその様子をいかにも寂しげな、捨てられた小犬のような眼で見詰めながら、大江縁は一人で砂の城を造っていた。しかるに、これが驚異の完成度。周囲に集まった見物人の子どもたちから盛大な拍手を浴びた程。高校入学の前、カナダに住んでいた頃は「砂の城コンテスト」に出場したこともあったとか。面白過ぎる。