仮面ライダーW(ダブル)第二十一話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第二十一話「還ってきたT/女には向かないメロディ」。
脚本:長谷川圭一。監督:坂本浩一
風都警察署超常犯罪捜査課の真倉俊(中川真吾)は、同課長の照井竜(木ノ本嶺浩)の単なる部下であるばかりか、よい相棒にもなりそうに見えた。なぜなら彼は、照井竜が真剣に戦うべく仮面ライダーアクセルに変身しようとするとき、丁度よい具合に気を失っていたからだ。まるで仮面ライダーWが姿を現そうとするとき、左翔太郎(桐山漣)か、フィリップ(菅田将暉)か、何れかが気を失って倒れるのと同じように。
今回、鳴海探偵事務所に持ち込まれた謎の事件の依頼人は、他ならぬ彼、「マッキー」こと真倉刑事。土下座までした彼からの捜査協力の依頼に、翔太郎は何時もの気取った口調で「悪いな。俺は、警察みたいな権力にゃ、なびかねえ。それがハードボイルド探偵の鉄則だ」と応じたが、探偵事務所長の鳴海亜樹子(山本ひかる)は通常より三割増の料金で引き受けたい旨を提案し、フィリップも、翔太郎とは犬猿の仲の真倉刑事がこのように頭を下げるとは余程の事情があるに相違ないと述べて、興味を示した。ところが、真倉刑事の意図が、上司を出し抜いて新人の女刑事に良いところを見せて振り向かせたいという甚だ不純なものだったことを知るや、フィリップも亜樹子も呆れ果てて興味を失ったのに比して、翔太郎だけは俄かに興味を示して仕事を引き受けてしまった。こんな下らないことで真倉刑事と意気投合できてしまえる翔太郎の「甘さ」が素晴らしい。
事件の現場で発見した証拠品に記された「Catherine」の文字を見て、どこかの「スナック」の「ホステス」の名前か?としか思わなかった点も含めて今朝の翔太郎は何時も以上にエロオヤジの気配をただよわせている。
他方、翔太郎の新たなライヴァル、照井竜の、事件の現場における刑事としての行動も、敵を追跡して走る途中で、どういうわけか宙返りをしたり、急に通路の脇にある階段を昇ったかと思えば直ぐに飛び降りてしまったり、極めて無駄な動作を連発することで無用の格好よさを演じて見せたあたり、なかなかの「ハーフボイルド」だったと云えるだろう。その点で、翔太郎とは互角の勝負だ。
ところで、真倉刑事を魅了したロス市警帰りの新人刑事、九条綾(木下あゆ美)が濡れ衣で懲戒免職になった元同僚による真犯人への「復讐」の話をしたとき、真倉刑事は何時になく真剣な表情で「最低だ!立派な警察官なら、犯人たちを逮捕し、裁きは法に委ねるべきだ!それを、ドーパントになって復讐なんて」と義憤を露わにしたが、照井竜は「おまえに何が解る?」と云って彼を殴った。
照井竜がこのような理不尽な行動に出た理由は、一つにはもちろん劇中で彼自身が云っていた通り、彼もまた、かつてドーパントに家族を殺害されて以来、復讐心を胸に抱いて生きているからだろうが、もう一つには、九条綾を暫く「泳がせておく」必要があると察知し得たからでもあるだろう。九条綾の左足の負傷についてフィリップが指摘したことは、九条綾こそがドーパントの正体である可能性を示唆するものであることを、フィリップとともに照井竜もまた瞬時に理解したに相違ない。
あの時点で恐ろしい真相に気付いていたのはフィリップと照井竜のみ。翔太郎と真倉刑事は全く気付いてはいなかった。
だが、以上のことは真倉刑事が単に恰好わるいだけの男ではないことを例証してはいないだろうか。なぜなら翔太郎は、復讐によっては何者も決して救われるものではないと考えているからだ。彼のこの信念は、既に昨年十一月に放送された第十一話と第十二話の「復讐のV」事件において主題化されたことがある。彼は、たとえ「とても不合理だ」と笑われようとも、九条綾を本当の意味で救いたいと考えるだろうし、もちろん照井竜を何としても救わなければならないと考えているはずだ。そして真倉刑事は、ああ見えて意外に、このような熱い思いにおいて翔太郎と似ているのかもしれない。