仮面ライダーオーズ第九話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第九話「ずぶぬれと過去と灼熱コンボ」。
このテレヴィドラマを、吾等視聴者は誰か特定の登場人物の視点から観察しているわけではない。全てを知り尽くした神の視点から見ているわけでもないが、劇中の鴻上財団という得体の知れぬ存在を、その存在の意味は未だ判らないにせよ、少なくともその存在という事実だけは第一話の時点で知り得ていた。
この奇妙な法人は、グリード衆が永い眠りから目を覚ましたことを喜び、旅人の火野映司(渡部秀)がグリードのアンク(三浦涼介)によって見出されて仮面ライダーオーズに変身したことをさらに喜んで、やがて仮面ライダーオーズ=火野映司の前に親切な協力者として出現した。鴻上財団がそのように行動するのは、グリード衆の間に奇妙な抗争が生じていること、その副産物として仮面ライダーオーズが誕生したことを好機と考えるからだ。
グリード衆は己の生存のため人間界を混乱に陥れようとしているが、中には、己の生存の糧としての核メダルを他のグリード衆よりも多く確保するため仲間を騙してでも出し抜こうとしている者もいる。そうした状況を予め察知し得たからこそアンクは他のグリード衆からは一人だけ離れ、人間と提携してでも、先ずは己の生存を守るため他のグリード衆と闘わなければならないと考えている。こうして、グリードの一員であるアンクと火野映司との間には本来は互いに対立する要素しかないはずであるにもかかわらず、偶然の成り行きの中で両名は奇妙に捻じれた契約関係を結び、火野映司はアンクをも含めたグリード衆から人間を守るため、アンクのメダルの力を借りて仮面ライダーオーズに変身し(少なくとも当面はアンク以外の)グリード衆との闘いを始めた。協力と対立の交錯する実に複雑な関係だ。そこへ鴻上財団という奇妙な法人が全く別の思惑を抱いて強引に介入してきたのだ。
鴻上財団の思惑が何であるのかは今のところ神ならぬ単なる観衆に過ぎない吾等視聴者の視野には入っていないようだが、兎も角も以上の経緯を観客席から目撃することはできている。だが、劇中の登場人物はそのような視点には立っていない。
一連の騒動の中心人物であるアンクは流石に誰よりも早く鴻上財団の存在を察知し、この得体のしれぬ巨大な団体にどう対処すべきかを計算し始めているが、他のグリード衆の中では最も怜悧なカザリ(橋本汰斗)のみが、鴻上財団の存在に微かに気付きつつあるに過ぎない。現在のカザリにとって、それは眼にも見えない謎の巨大な力でしかない。どのような姿をしたどのような力であるのかも判らないまま、ゆえに反撃を企てることもできないまま、想像を絶する深刻な影響が、自身の身に及びつつあるのを感じ、漠然とした不安と恐怖に襲われているのだ。怯えるカザリのあの姿こそは鴻上財団の恐ろしさの最も強烈な表現に他ならない。