橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり第十部第四話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第四話。
野田家の騒動は一応の決着を見たが、甚だ気になるのは、野田弥生(長山藍子)が一体どこまで真相を想像できていたのか?という点だ。
弥生のこれまでの発言の数々が、野田佐枝(馬渕英俚可)の最近の様子に浮気、不倫の気配を感じるからこそのものだったのは明白だった。実際、そのような事実があった。病院で事務員として働く佐枝の帰宅が毎日かなり遅かったのは決して「残業」の所為ではなく、病院長との逢瀬の故だった。それどころか佐枝は、既に家庭のある病院長に対して今の家庭を捨てて己と再婚して欲しいと要求していたのだ。この再婚が成就した暁には、佐枝は野田家を出るつもりでいた。
そして驚くべきことに弥生は、佐枝に対する自身の厳しい態度が、佐枝に野田家からの独立を決意させてしまうかもしれない気配をさえ感じて、内心そうはならないことを祈ってもいたらしいのだ。
弥生の洞察には何時もながら驚嘆するほかない。だが、ここで注意しておきたいのは、佐枝が野田家を出てしまうかもしれないという弥生の予感の根拠は、(劇中で弥生自身が述べたところを信じる限り)あくまでも佐枝が職業人としての能力を身に着け、十分な収入を得るようになってきていると認められた点にあり、必ずしも不倫相手と新たな家庭を築こうとしているのではないかと想像された点にあるのではないということだ。既婚で子のある女との不倫の果てに家庭を壊して社会の信用をも失うような馬鹿な真似をする病院長なんかいる道理がない…というのは佐枝の不倫相手の病院長の言だが、弥生はそこまで洞察し得ていたのかもしれない。しかし単に、佐枝がそこまで大胆な不義理の女であろうとは流石の弥生も想像し切れなかっただけであるのかもしれない。
何れにせよ、弥生は佐枝の嘘を見破ろうとはせず罪を追求しようともせず、むしろ佐枝を追い詰めてしまった責任を自ら黙って引き受け、佐枝との平和な関係を取り戻そうとしている。なかなかの度量で、しかも賢明だ。