Q10(キュート)第五話

日本テレビ系。土曜ドラマQ10(キュート)」。第五話。
学校の校舎の屋上における事件は、このドラマには稀な、ドラマティクな激しさの連続だった。深井平太(佐藤健)に対して、Q10前田敦子)を寄越せ!と迫る中尾順(細田よしひこ)と、それだけはどうしても譲れない深井平太との間の激しい遣り取り。脅迫のため屋上から飛び降りようとする中尾順と、それを止めようとする深井平太。争いの果てに中尾順は救われ、深井平太が転落した。その瞬間、中尾順が携えていた小さな青い球体が落ちて、割れて砕けた。それは富士野月子(福田麻由子)から与えられていたもの。他人の世界を壊せば己の世界を失うしかないことの象徴だった。あの瞬間、中尾順の世界は崩壊したのだ。
だが、それは中尾順が見た一瞬の幻影だったのだろうか。現実の事件においても、争いの果てに深井平太は屋上から転落したが、Q10によって抱き留められて救われ、青い球体は壊れなかった。
Q10は抱き留めた深井平太をそのまま屋上へ投げ返して、今度は中尾順に抱き留めてもらうつもりであることを宣言したが、もちろん中尾順に限らず、どんな人間にも、そんなことができるわけはないし、Q10も冗談で云ってみただけだった。冗談によって深井平太を笑わせて元気にしたかったのだ。同時に、これは深井平太とQ10との間に生まれた世界が、中尾順には抱き留めきれない程に重いものであることを表してもいるだろう。
他人の世界を壊せば己の世界をも失うだろう…という富士野月子から中尾順への警告は、日々大小様々な水準で、他人をあたかも単なるモノであるかのように扱って気軽に弄び、取り返しの付かない事態を招きかねない現実の人間への教訓でもあるだろうか。
深井平太と中尾順との間のこの物語には実に劇的な激しさがあって見応えがあったのだが、気になるのは、今回の中尾順と今までの中尾順とが同一人物とは見えにくいというところだろうか。今回の彼は余りにも怖い。同じように、影山聡(賀来賢人)が留学の話を唐突に出してきたのには驚かざるを得なかった。前回の話を台無しにしてしまいかねない重要な要素は前回の内に少しでも出しておくべきではなかったろうか。山本民子(蓮佛美沙子)や藤丘誠(柄本時生)の話も少々唐突で無用だったかもしれない。