Q10(キュート)第六話

日本テレビ系。土曜ドラマQ10(キュート)」。第六話。
藤丘誠(柄本時生)の、弟の藤丘勇人(谷端奏人)に対する「“もう、いい”なんて云うなよ」という言は、先々週の話におけるQ10前田敦子)の、深井平太(佐藤健)に対する「御無体なこと」「人の情けのわからない」という言の再来と云えるだろう。
深井平太が富士野月子(福田麻由子)に対し、Q10のハニカミ顔を知っているか?と質問してみせたとき、富士野月子は当然のこととしてQ10にはそのような機能が搭載されていないことを述べることで答えてみせたが、深井平太はQ10にもハニカミ顔があることを述べて、しかし反面そのことだけを述べて特に詳しい説明もしないまま勝ち誇ったような顔をして去ってみせた。
だが、この応酬において正しいことを述べていたのは明白に富士野月子の側だ。なぜなら深井平太の云うQ10のハニカミ顔は一般に了解され得るようなハニカミ顔とは似ても似つかぬ別物でしかないからだ。
結局、ここにおいて深井平太はQ10と己との間には他の誰も知らないような共有の秘密があることを示唆してみせたに過ぎない。換言すれば、Q10は己一人のものであると宣言してみたに過ぎないのだ。先週の話において彼は中尾順(細田よしひこ)に対しQ10は誰の所有物でもないと云い放ち、今宵の話においては富士野月子に対し、Q10を自分の思い通りにしようという意のないことを告げた。だが、実際には彼は、Q10を己の意のままにする意こそないとはいえ、誰にも渡したくはないとは思っていると見られよう。
そう考えるなら、影山聡(賀来賢人)への恋心を自ら断ち切って泣く泣く別れることにした河合恵美子(高畑充希)の決意は、深井平太の現在の思いと対置されてあると見ることもできるだろう。
河合恵美子が己の強い恋心を敢えて自ら断ち切るべく決意しなければならなかったのは、影山聡がそれを負担に感じていることを感じたからだ。もともと二人が交際を始めた契機は影山聡が熱烈に求愛したことにあったはずだし、今なお彼は「かわいい」河合恵美子を愛してもいるようだが、それにもかかわらず彼が交際を終わらせたいと思い、求愛された側がその意を汲んで別れ話を持ちかけるに至ったのは、彼が、映像作家になるという夢に近付くため知人の誘いに乗じて海外へ留学したいと願望する中で、恋人からの、何時でも常に一緒にいたいという思いを重く感じたからだった。
なるほど彼等二人の心理の論理を理解することはできる。しかし大海の波涛を隔てた遠距離恋愛という選択肢がどうしてあり得なかったのか。河合恵美子の強烈な執着は、遠距離を隔てることで退化するかもしれないし、逆にさらに強く燃え上がるかもしれないが、何れにせよ、別れてしまうことが遠距離を隔てた恋を続けることよりも望ましい選択肢であるという理由は必ずしも明白ではない。
こうした成り行きの結果として影山聡という人物は、脈ありそうな気弱な女に云い寄って心を奪い、直ちに交際を始めてはみたものの、相手の思いの重さを知るや、それを負担に感じて面倒くさくなって、上手いこと逃げてしまっただけの、まるで『伊勢物語』における女を奪う「昔男」の如き、身勝手な男であるかのように見えてしまうのだ。