黄金の豚第六話
日本テレビ系。水曜ドラマ「黄金の豚-会計検査庁特別調査課」。第六話。
今宵の話の枠組をなしたのは、角松一郎(大泉洋)が責任ある立場になったことと、工藤優(岡田将生)が己の立場を見詰め直し始めたことだ。
角松一郎は会計検査庁特別調査課長の第二係主任から同課長補佐へ昇進した。どういうことだろうか。第二係主任というのは実は第二係の主任ではなく、課長補佐級の主任調査官で第二係長をも兼ねていたということだろうか。ともかくも彼は課長補佐へ昇進したが、これは同課長補佐だった明珍郁夫(生瀬勝久)が第二係調査官の堤芯子(篠原涼子)を庇ったことの結果として金融企画庁の閑職へ昇進(とは名ばかりの、事実上は左遷)をさせられたのに伴う緊急の人事異動だった。この人事の影響は決して小さくはない。なぜなら角松一郎の大胆な調査活動は今までは明珍郁夫によって程々に抑制されながらも庇護されてもいたのだからだ。今後はそうではない。角松一郎は今まで以上に大胆な調査活動を展開することができるが、同時に、自身はもちろんのこと部下の身をも守らなければならないのだ。二人で分け合っていたことを一人で引き受けなければならなくなったわけで、ここに深刻な苦悩が生じるだろうことは見易い。
金田鉄男(桐谷健太)が守りの姿勢から攻めの姿勢へ転じたのはその派生であるのが明白だ。彼はもともと角松一郎の大胆な調査への一番の共鳴者で、一番の盟友だった。彼等二人の大胆な調査活動は内外の各方面から抑圧され、弾圧されるのを免れなかったが、今度の人事異動の結果、むしろ角松一郎自身が抑制する側の立場になってしまった。今や角松一郎の分まで引き受けて大胆な調査を敢行できる者は、金田鉄男以外にはいない。少なくとも彼はそう考えていることだろう。
他方、工藤優に生じた変化は、明珍郁夫と角松一郎の人事異動によるものではなく、今回の会計検査の対象となった機関への思い入れによるものと見るべきだろう。今回の対象は、官僚を最も多く輩出し、最も多額の研究費を独占してきた強大な高等教育機関「東京国立大学」の、遺伝子工学の研究室における莫大な科学研究費の行方。工藤優は自身の母校が調査の対象となって名誉を傷付けられることを耐え難く感じたようだ。だが、不図思うに、会計検査の対象となることに対する対象側の反発の大部分は、不正を暴かれることへの恐怖であるよりはむしろ疑われて詮索されること自体への不快感にありはしないだろうか。そうであれば工藤優が抱いた抵抗感は普通の役人の感覚と同じものだったのかもしれない。そして何よりも、権力の中枢に最も近い大学を卒業して官界に入った官僚候補である点において既に彼は権力者の心理を共有してもいたのではないだろうか。彼の心に生じた変化は今回だけの偶々のことに過ぎないのか、それとも彼の本質であるのか。