SPEC第七話
TBS系。金曜ドラマ「SPEC(スペック) 警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿」。第七話。
当麻紗綾(戸田恵梨香)と瀬文焚流(加瀬亮)は今回、一方においては、警視庁公安部の刑事としての職務に一応は従っていたと云うべきか、追跡すべき者を追跡してはいたが、他方においては、私情によって公務を裏切ることになるのを覚悟した上で、警視庁公安部を出し抜き、むしろ彼等の動きを利用し尽くし、彼等の利益を害する行動に出た。私論で公論を害してはならないとの信念を表明していた当麻紗綾にしては余りにも大胆な暴走ではあるが、公安部の上層部の一部が何か大きな闇を抱えている気配を確信したからこその行動であると見ることができる。ともかくも今宵の話には今までの劇中の秩序を一挙に崩壊させ転倒させる程の激動があり、面白かった。
警視庁公安部の津田助広(椎名桔平)は、事件の現場で殺害されたが、本庁の室内で生きていた。どういうことか。冷泉俊明(田中哲司)は当麻紗綾と瀬文焚流の黙認を得て脱走に成功したが、果たして静かな人生を送り得るのだろうか。地居聖(城田優)も何か「SPEC」の持ち主であることは間違いなさそうだが、元恋人の当麻紗綾の過去について何を知っているのだろうか。今や最も怪しい人物の一人だろう。そして警視庁刑事部捜査一課の猪俣宗次(載寧龍二)と彼の上司の鹿浜歩(松澤一之)は公安部の暗部を微かに垣間見て、刑事として、今後どのように行動するのだろうか。
警視庁公安部公安第五課の、未詳事件特別対策係の嘱託係長、野々村光太郎(竜雷太)は、当麻紗綾と瀬文焚流の今回の暴走を全て見通し得ていたようだが、それはどのような経験、見識、或いは「SPEC」によるのか。
一十一[ニノマエジュウイチ](神木隆之介)の今回の登場の仕方は、なかなか衝撃的だった。なぜなら余りにも普通の少年男子だったからだ。彼の居場所は蒲田の住宅街にある小さな二階建の一軒家。その門柱に「一」の表札があり、当麻紗綾がそこを訪ねたとき、玄関の戸を開けて出てきたのは彼の母親。普通の女性。その人から「十一!」と名を呼ばれたとき、彼は二階の自室の畳の上に敷いた布団にくるまって横になっていた。心身ともに健康に見えるにもかかわらず、学校へ行くべき時刻にも学校に行かず家で寝ているのだから少々問題児であるのかもしれないが、親との関係は良好な、素直な愛すべき少年であるように見えた。
母親に呼ばれて二階から一階へ狭くて急な階段を駆け降りるときの彼の内股気味の足の動きが、いかにも頼りなさそうな、強くはなさそうな雰囲気を強調していて、これまでに見たあの悪魔的な、日常の世界をはるか超越したところにいるかのような、謎めいた印象は微塵もなかった。だが、そのことが逆に彼の謎をさらに深めたとも云える。この爽やかながらも繊細な印象の美少年が一体どのようにしてあの謎の美少年と化し得るのか?と。