仮面ライダーオーズ第十四話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第十四話「プライドと手術と秘密」。
前回の話を構成した三つの出来事は、(一)「溜まりまくるアンクと後藤のストレス」、(二)「手術の好きな外科医にヤミーが寄生」、(三)「アンクは比奈の兄の体を捨ててしまった」。
鴻上財団の隊長、後藤慎太郎(君嶋麻耶)は、またしても指揮系統から勝手に離れて単独行動を取っていた件について会長の鴻上光生(宇梶剛士)から叱られていた。「後藤君、君が今一つ吹っ切れない原因は、そのプライドだ。欲望をプライドで抑え込んでいる。非常に詰まらない」。この、鴻上光生による後藤慎太郎評には興味深く意義深いものがある。
今の後藤慎太郎に欲望があるとすれば、それは世界の平和を守るための戦闘の最前線に立ちたいという欲望だ。この欲望に関して、彼は何も抑え込んではいない。果たして鴻上光生は後藤慎太郎の欲望が何であるのかを正しく認識できているのか否か。
(1)もし鴻上光生が後藤慎太郎の欲望を正しく認識した上で、プライドを捨てて欲望を解放せよ!と云っているとすれば、今後の展開に関して、何とも嫌な可能性を想像せざるを得なくなる。後藤慎太郎には既に、もし何か不正を働いてでも仮面ライダーに変身したいという欲望が生じたとすれば、そしてその不正の方法が具体的に判明したとすれば、直ぐにでも変身の能力を獲得できるだけの条件が、鴻上財団によって整えられているのではないのかと想像されるのだ。だが、そもそも鴻上光生の怒りは後藤慎太郎が臨時の秘書としての業務を放棄したことに向けられていたのだから、この可能性はなさそうに思われる。
(2)鴻上光生は後藤慎太郎の欲望を、もっと一般的なものと考えているのではないだろうか。後藤慎太郎にも出世欲や金銭欲や食欲や性欲はあるはずであるのに、彼はプライドによってそれらの欲望を全て抑え込んで、正義のみを追い求めようとしているので「詰まらない!」と。否、確かに一般論で云えば多分その通りだろう。彼は世界の平和を守りたいという志を抱き、そのための仕事に全てを捧げようとしているのだからだ。だが、後藤慎太郎が臨時の秘書として会長の手作りのケーキを十個も二十個も平らげる業務を精一杯に務め上げて会長に媚びることを潔しとしなかった原因を、食欲も出世欲もプライドで抑え込んで、解放しないからだ!と鴻上光生が思い込んでいるとすれば(そして実際そのように思い込んでいるように見受けるが)、それは完全な誤解でしかないだろう。もし彼がそのような出世欲の持ち主だったなら、そもそも警察官僚候補として本庁や警視庁における出世を約束されていた職を敢えて辞職してまでも、鴻上財団のような得体の知れぬ団体に転職するような馬鹿な真似はしなかっただろう。少なくとも彼の場合、鴻上財団に転職した時点で出世欲なんか捨ててしまっているはずだ。食欲に至っては、今回の事件に関する限り、そもそも欲の有無の問題を超えている。適度な大きさに分割されてもいない丸ごとケーキを十個も二十個も平らげるというのは、もはや食欲の問題ではなく体質の問題だろう。
ともあれ、後藤慎太郎の「プライド」に関しては欠点とも美点とも両様に評価できる。欠点として評価する基準としては、火野映司(渡部秀)の軽やかな柔軟性を見ておけばよい。彼は泉比奈(高田里穂)の兄である泉信吾(三浦涼介)の瀕死の身体を守るため、アンク(三浦涼介)に対し、泉信吾の身体へ帰るように要求したとき、「俺に命令するな!」と反発したアンクの前で直ちに「わかった!おねがいします!」と頭を下げた。あの調子だと、多分、土下座しろ!と云われても土下座していたろう。そのような軽さ、柔軟性はあの場では必要だったに相違ないが、それでも多分、後藤慎太郎には真似できそうもない。その意味で彼の「プライド」は彼の正義を邪魔する欠点であり得る。
だが、この頑固な欠点あってこその後藤慎太郎でもあり、ゆえに美点でもあり得るはずだ。鴻上光生からの罵声を思い出しながら、「だからと云って、プライドを捨てたら終わりだ」と心の中で呟かずにはいられなかった青年、後藤慎太郎隊長の思いを、好意的に解釈しておきたい。
東映の公式サイト(http://www.toei.co.jp/tv/OOO/story/1194022_1793.html)に掲載されている写真の、大きな武器を手にして立っている後藤慎太郎の姿が余りにも美しい。どこの美少年アンティノオスかと思った。