ドラマ生まれる。第六話

TBS系。金曜ドラマ「生まれる。」第六話。
林田家の次男の林田浩二(中島健人)を、第一話における姿と第六話における姿で比較するなら、殆ど別人のように見えることだろう。かつての、平穏無事の日常生活に閉塞感でも抱いていたのか、快楽におぼれながらも常に苛立ち、不機嫌な顔をしていることの多かった彼は、今や一転、亡き父の遺した店で家業を守り、母を助け、平和な日常生活を楽しんで営んでいる。
まるで正反対だが、この変化を生じたのは、彼の母の林田愛子(田中美佐子)が新たな生命を宿したことにある。かつて白血病で死にかけた彼は、母からの骨髄を移植されて救われたから、母には常に感謝していたが、そのことを少々負い目にも感じていて、ゆえに、母が困っているときには助けたいという思いも強く持っていたのだろう。
だが、多分それだけではない。生死の境界を彷徨したこともある彼にとっては生命の問題は重大であるとすれば、自身の生命の恩人でもある母が新たに宿した生命は、彼には、まるで自身の分身のように感じられるということがありはしないだろうか。しかも彼は今、密かに、白血病の再発の気配を自覚している。そのことがますます彼に、新たな生命を何としても守りたいという思いを抱かせているのではないだろうか。
そこで彼は、林田家で最も賢い姉の林田愛美(堀北真希)を説得して、母の高齢出産の味方にした。説得が成功した「勝因」は、家業のパン店「パンテン」の常連客である西嶋丸子(宮武祭)と親しくなってその弟の西嶋萌生(高井萌生)と出会い、姉にも西嶋家の人々を紹介できたことにあった。
林田家のパン店「パンテン」を林田浩二が継ごうとしていることには、その他にも重要な意味があるだろう。(1)母の林田愛子は亡き夫が遺した店を守り、亡き夫が遺した生命を出産したいと願っている以上、母の出産を助けたい彼も、亡き父の遺した店を確り守ってゆくことこそ母を助ける第一歩であると考えているだろうし、もちろん実際にその通りだった。しかし(2)母の高齢出産を真に支援してゆくためには先ずは家族の結束を固め、生まれてくる子どものための平和な居場所を作っておくことも必要であるとすれば、家業を守り、家を盛り立ててゆくことがその第一歩であり得るだろう。だから彼は「パンテン」でパンを作り、パンを売りたいのだ。彼が兄の林田太一(大倉忠義)との会話の中で、少年時代に兄弟で競い合うように「パンテン」でパンを作る手伝いをしていた思い出を語って懐かしんでいた場面は、その意味で極めて意義深い。彼にとって家族の思い出が何時もパンで彩られてきたことが窺われるからだ。パンを作り、パンを売り、パン店を守ることは、彼にとってはそのまま家族を守ることであるのだ。
林田浩二が心に抱えている決意、情熱、愛、そして死の恐怖は、この余りにも混乱を極めていて収拾の付きそうもないドラマ番組の中で最も、あるいは唯一、物語性を具えているように見受ける。だからこそ、彼の話よりもドラマの主軸にあるらしい彼の兄に襲い来る闇社会の話や妹の話等は余りにも蛇足ではないかと感じられてくる。