高校生レストラン第四話
日本テレビ系。土曜ドラマ「高校生レストラン」第四話。
三重県立相河町にある相河高等学校調理クラブの教育施設であると同時に、町の観光や産業の振興に資することを期待されている「高校生レストラン」。それが成功するためには、優秀な料理人を迎えるだけではなく、学校の適切な指導とともに町役場の各課の支援も欠かせない。
地方公共団体の所謂「箱物」は、建設したあとはその効果を待つのみ!箱物がどれだけ儲けて、町の振興にどれだけ資するかを厳しく観察するだけでよい…というものではなく、むしろその効果を高めるためにも役所は当の箱物自体の振興に尽力し続けなければならない。監督して利益を待つだけではなく、むしろ投資と支援をこそ継続しなければならないはずだ。その辺の道理を弁えているなら「箱物」の行政は有意義で有益で必要であるのに、現実には無駄が多いように思われるとすれば、それは運営のための投資や支援を考えようとも努めようともしないからではないだろうか。
そう考えるなら、このドラマの高校生レストランにとって相河町農林商工課の岸野宏(伊藤英明)の存在は心強い。かつて都会の大型店を町内の郊外に誘致することに成功した有能な花形の吏員の彼は、今回、高校生レストランを食中毒の仮病で騒がせた一老人の事情を考えるところから、やがて、町の人口の四割を占める高齢者が大型店の進出によって孤立してしまった問題を考えるに至った。政策に終わりはないことを知ったのだ。
大型店の進出は町内の若い世代に喜ばれた反面、町内の商店を閉店に追い込んだ上、商業の一極集中は公共交通機関の撤退をも招き、「足」=自家用車を持たない高齢者を孤独にした。地域を振興する政策を華々しく推進した役場の花形として、その光しか見ていなかった彼はその陰をも深く認識できた。この認識を生んだのが、高校生レストランにおける一事件の解決のため、地域を自身の足で歩き回った結果だったことに意義がある。彼は高校生レストランの企画立案者であり推進者でもあるが、箱物だけを作ってそれで完了したと考えるわけではなく、運営を成功させてその効果を町の全体にまで及ぼすためには、箱物の設置者である町役場としては今後ますます盛り立てるべく動き回らなければならないと固より考えていて、ゆえに今回の件でも、迷惑な一老人の悪戯と片付けるのではなく、真の解明、解決のために熱心に動き回った。その結果、先に自身が推進して成功させた事業が、地域に深刻な打撃をも与えていたことを認識し、何とかしてそれを解消したいと願望し始めた。彼の中で政策が総合化されようとしていた。
だが、高校生レストランは相河高等学校調理クラブの教育施設であり、それを現場で動かしてゆくのは、料理人を目指して勉強している坂本陽介(神木隆之介)をはじめとする高校生たちだ。単なる町役場の出先機関ではない。今宵のこの話で面白かったのは、高校生レストランに客として来た一高齢者が仮病で食中毒を訴えた事件から、高校生たち自身が町の高齢者の孤立の問題を考えたところだった。彼等は、岸野宏とは別に、自力で高齢者の問題を考えた。そして高校生レストランで、自分たちの力で何かをできないかと考えて、土曜日の店を高齢者だけのための店、「まごの店」にすることを発案した。
彼等のこの素晴らしい提案に、岸野宏は感動しつつも遠慮した。ただでさえ政策のために高校生の協力を得ている中で、さらに別の政策のためにまでも彼等への負担を重くするわけにはゆかないと考えたのだろう。これは大人として節度ある姿勢だ。ところが、ここで料理人の村木新吾(松岡昌宏)は何時になく岸野宏を遮り、生徒たちの提案を直ぐに実行することを宣言した。料理人としてよりも指導者として、教育者として生徒たちの創造力、意欲、成長を信じたからに相違ない。
ところで、村木新吾は冷たく厳しい教諭の吉崎文香(板谷由夏)に心惹かれ、岸野宏は村木新吾の妹の村木遥(吹石一恵)と事実上の両想いであるのだろうが、生憎、伊藤英明と松岡昌宏の熱演の所為で岸野宏と村木新吾が似合いの両想いであるかのように誤解を与えかねない。