高校生レストラン第八話

日本テレビ系。土曜ドラマ高校生レストラン」第八話。
人生における「出会い」の話。人が道を見出して進路を定めるのは人との出会いによって己を知ることを得るから。出会いはどのように訪れるのか。
相河高等学校調理クラブ「高校生レストラン」で働いてるのは、もちろん皆が高校生だ。高校生は将来への進路を考え、どこかへ就職するか、進学するかを決めなければならない。人生経験も乏しい内に、早くも自ら人生を限らなければならないのだから、何とも苦しい話だ。若者は大人が思っているよりも賢いから、料理道の厳しさをよく弁えていて、料理人になりたい!とは容易には云えない。料理を愛し、憧れているのに、家庭の経済事情等まで真剣に考慮した上で、料理とは何の関係もない就職を考える者が少なくない。
そんな彼等にとって、銀座の名の有る料亭で働いた経歴を持つ料理人の村木新吾(松岡昌宏)は、眩しい存在であるのかもしれない。料理人を志している坂本陽介(神木隆之介)にとっては特にそうだろう。
村木新吾先生は如何にして一流料理人となりしか。生徒たちからそう問われた彼は、遠い過去の、一つの「出会い」の思い出を語った。
高等学校の卒業と同時に郷里の三重県相河町を離れて、東京へ出た村木新吾少年は、将来について何の目標もなく進路も定まらないまま大学へ通い、生活費を稼ぐために居所の近所の定食屋でアルバイトを始めた。もちろん料理を作るわけではなかった。皿洗いと清掃と接客の日々。その店に賄い料理があった。大抵は野菜炒め定食だったが、時には肉が増えたり、トンカツになったりした。それが美味だったので、彼は何時しか店で働くことに生き甲斐を感じていた。
そうした中で、或る夜、営業時間を終えて店を閉めようとしていた彼は、店先に一人の少女が泣いているのに気付いた。空腹で泣いているのではないかと察した彼は、少女に、俺が何か拵えてやる!と告げてしまった。料理なんか作ったこともないのに。店を閉めたあとだったから、店主もいないし、材料もない。それでも彼は、厨房に残っていた野菜の切れ端をかき集め、いつも賄い料理を拵えてくれる店主の手先を必死に思い出しては見様見真似で何とか野菜炒めと炒飯のようなものを拵えて、少女に供したところ、一口それを食べた少女は笑顔で「おいしい」と云ってくれた。
この瞬間、村木新吾は料理人になりたいと思った。泣いていたはずの少女が見せてくれたような笑顔を、もっと何度でも見たいと思ったのだ。修業は厳しく、何度も挫折して逃げそうになったが、その度に少女の笑顔を思い出して踏ん張った。
出会いが人に道を開かせる。そして出会いは必ずや訪れる。料理の道でなくとも、どの道を歩んでも、いつか大切な出会いがあって、そして真の道が見えてくる。村木新吾はそう語った。
坂本陽介は、既にそのような、大切な、運命の出会いを経験してしまったのかもしれないことを感じていた。相河町にある祖母の定食屋を継いで守るために料理人になりたいと予て思っていた彼は、今では、もっと厳しい修業を積んで、己の腕がどこまで通用するかを試したいと思うようになっていた。村木新吾と出会い、本物を知り、憧れて、そのように意を決しつつあった。
だが、出会いのドラマはそれだけではなかった。実は村木新吾もまた「高校生レストラン」における生徒たちとの出会いを、あの少女との出会いに続く出会い、もう一つの出会いであると感じ始めていたのだ。そして彼の大親友である相河町農林商工課の岸野宏(伊藤英明)もまた、生徒たちとの出会いを経て、「まちおこし」の姿を考え直し、新たな事業を考え、そのためには業務の枠をも超えた努力と責任を辞さない覚悟を決めていた。その覚悟の程は、今までの彼を既に充分よく知っているはずの、事業への出資を打診された大型店の支店長や相河町観光課長の戸倉正也(金田明夫)にとってさえ、云わば衝撃の出会いにも等しかった。
料理とは別の道へ向かって地道な就職活動を始めていた三年生の一人、宮下剛(草川拓弥)が愛らしく見えた。