渡る世間は鬼ばかり第十部第三十五話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
最終部=第十部第三十五話。
小島眞(えなりかずき)は、大井道隆(武岡淳一)から依頼を受け、代理人として中国の上海へ渡ることを決めた。
大井道隆は技術に関する一つの発明をした。かつて一緒に仕事をした縁のある上海の企業にそれを売り込んだところ、それを是非とも活用したいと申し出てきたので、契約を締結することに決めていたが、旧知の弁護士を通して進めていたはずのその契約が、どういうわけか進んでいない様子。交渉が今はどこまで進んでいるのかを確認し、できれば早く契約を締結してしまいたいと大井道隆は考えていて、しかし彼は病のため動けない。
そこで彼は小島眞に出張を依頼したのだが、生憎、そのための旅費を準備する資金は今の大井道隆にはない。そもそも大井道隆は今は会社の経営者ではなく、小島眞がその社員でもないのは云うまでもない。かなり無茶な話ではあるが、小島眞は任務を引き受けた。自費で海外へ出張するのだ。
だが、この件に関して、小島眞の現在の職場の上司である長谷部力矢(丹羽貞仁)が少々怖い話をした。公認会計士として多くの企業の経営を見てきた長谷部力矢によれば、中国の企業と契約を締結するときは、大いに警戒して慎重に仕事を進めなければ、大切な権利を騙し取られて、大損害を被ることになりかねないと云うのだ。
なるほど現実味のある話だ。警戒を要するのは間違いないだろう。だが、この警告がドラマの中で一体どのような意味を持つことになるのか。柔軟に眺めておく必要があるのは、このドラマにおいては毎度のことだ。小島眞が先方との交渉や契約で大いに苦戦を強いられたり、上手く行ったはずが実は騙されていたり等するとは思えない。そんな場面は描かれもしないだろう。むしろ重要なことは、重大な任務を帯びて上海へ一人で渡航する小島眞を、長谷部力矢が心配しないではいられないということだ。これは小島眞の色恋物語の一局面なのだ。