仮面ライダーオーズ第四十四話

東映仮面ライダーオーズ/OOO」。
第四十四話「全員集合と完全復活と君の欲」。
カザリ(橋本汰斗)の最期。それは彼を追い詰める場面の積み上げの末に、劇的に描かれた。
先ずは、カザリはアンク(三浦涼介)に喧嘩を売った。これまで時間をかけて着実に一大勢力を築き上げてきた彼はそれを勝手に横取りしてしまったアンクの行動を許せなかった。当然の感情だが、この事態の急変は、カザリが積み重ねてきた努力が何と脆弱だったかを物語ってもいる。カザリの戦略はアンクが人間の側にいることを前提にしていたから、アンクがグリードの側に戻るや直ぐに崩壊したのだ。
次いで、ウヴァ(山田悠介)がアンクの加勢をしてカザリの喧嘩を買い、カザリの隠し持っていたウヴァのコアメダル二枚を取り戻して見せた。カザリは今まで常にウヴァを愚弄し続けてきた。ウヴァは一匹狼として行動してきたから戦闘の場では苦戦を強いられることも多く、カザリにとっては恐れるにも足りないと思われたろう。だからこそ安心して愚弄し続けることもできた。まさかウヴァがアンクと手を組んで立ち向かってこようとは、怜悧なカザリも、想像したこともなかったろう。苛められ子のウヴァからのこの反撃はカザリを徹底的に窮地に追い詰め、危機感を抱かせたに相違ない。
仮面ライダーオーズ=火野映司(渡部秀)の、グリードに致命傷を与える能力の高さには驚くほかない。彼はカザリのコアメダルの内一枚だけを破壊したが、それはグリードの生命の根源をなすコアメダルの中のコアメダル、云わば核コアメダルだった。ウヴァがコアメダル一枚だけの哀れな姿になってもなお逞しく生き長らえることができていたのは、その一枚がその核コアメダルに他ならなかったからだ。そして今回、火野映司はカザリの核コアメダルを一枚だけ破壊した。他のコアメダルは無傷だったからか、その後も暫くは、カザリは生き延びて街を彷徨うこともできたが、さらに生き延びて生命力を回復するためにはもっと多くのコアメダルを得る必要があったのだろうか。
カザリに止めを刺したのは盟友だったドクター真木清人神尾佑)だった。ドクター真木清人がどこまでも冷酷非情であることは、視聴者の誰もが既に知るところだ。真木清人はグリードに対して「コアメダルの器」となって「暴走」することを求めているが、よく云えば慎重な、わるく云えば臆病なカザリには「暴走」は期待できない。全てのグリードがドクター真木清人の許に集結した今、期待できないカザリをこれまでのように特別な盟友として扱い続けることの意味は、ドクター真木清人には既になかったろう。彼はカザリの身体から、火野映司によって破壊された核コアメダル一枚だけを残して他の全てのコアメダルを奪った。これによってカザリは生命を維持する力を完全に失った。
カザリの最期の姿は余りにも哀しかった。カザリの哀しさを強調するのは、瀕死の彼が大都会の雑踏の中を彷徨っていた姿だ。これはグリードの哀しさを表している。八百年の眠りから目を覚ました彼等は、人間の社会の変化に戸惑うほかなかったろうし、何よりも、人間がグリードに対抗し得る戦闘力を開発していた事実には驚かずにはいられなかったに相違ない。
ここで昨年十月三十一日放送の第九話におけるカザリの姿を想起しておきたい。彼はグリード間の抗争を背後から操ろうとしているかのような、目には見えない謎の巨大な力の存在を感じ取って怯えていた。以後の彼の行動はその不気味な力を逆に利用しようとして立ち向かった軌跡だったと云ってよいが、結局は、利用しようとしたその当の相手に利用されるような格好で、再び不安と恐怖に呑み込まれた中で亡くなったのだ。
なお、火野映司とカザリとの戦闘において決定的に重要な役割を果たしたのは実は、仮面ライダーバース=後藤慎太郎(君嶋麻耶)の捨て身の必死の体当たりの攻撃によってカザリを足止めしたことにあった。このところ後藤慎太郎は常に格好よいが、今朝は最高度に格好よかった。
彼が火野映司のグリード化を阻止すべく日常の欲望を促進させようとして、なけなしの金で何かを買い与えようとしていたのも見落とせないし、彼が自身の遊びの経験の乏しさを嘆いていたのも、勉強と仕事にしか興味のない人物だったろうことをよく物語って味わい深かった。