土曜ドラマ妖怪人間ベム第十話=最終回
休日。しかし昼食と夕食のため昼と夜に各一度の外出をした以外には外に出ることもなく何もしなかった一日。今宵が所謂クリスマス前夜で、世間が盛り上がっているらしいことについては考えないでおきたい。
ところで。
日本テレビ。土曜ドラマ「妖怪人間ベム」。第十話=最終回。
今宵の話の前半の、束の間の幸福を打ち破るような後半の大事件。その絶体絶命の危機のあとの、三軒の三人家族それぞれの決意。
人間ではない者を通して人間を考え、家族ではない者を通して家族を考えたドラマの掉尾を飾るに相応しい力に満ちた展開だったと思える。
演奏会場に現れた悪い奴等を退治するため、たとえ多くの人々に目撃されることになろうとも妖怪人間の姿を現さないではいられなかったベム(亀梨和也)とベラ(杏)とベロ(鈴木福)の正体を見て、当然、多くの人々が逃げた。彼等を助けるために現れた妖怪人間三名を、まるで悪い奴等よりも怖い奴等であるかのように恐れるというのは非道い話だ…というのは、吾等視聴者の素直な感情ではあるが、視聴者の感情でしかない。
そうした中で夏目章規(北村一輝)と妻の夏目菜穂子(堀ちえみ)と子の夏目優以(杉咲花)の夏目家三名と、緒方浩靖(あがた森魚)と孫の緒方小春(石橋杏奈)と家政婦の町村日出子(広田レオナ)の緒方家三名が逃げようとはしなかったところに救いがあるが、ベムとベラとベロが親しい彼等の前から立ち去ろうとしたとき、夏目章規のほかは、敢えて呼び止めなかったのをどう見るか。
思うに、やはり彼等といえども流石に戸惑わざるを得なかったというのが真相ではないだろうか。ベムとベラとベロを大切な友と思ってはいても、その正体を目の当たりにした直後には、これまで通りには声をかけにくかったろうとは想像できる。辛うじて夏目優以が父親に声をかけたのは、大事件の直後の心身の混乱の中、何をどうすればよいのか判らない混沌の中でも、何かをしなければならないという思いに発した行為だったろうか。
ベムとベラとベロが「名前のない男」(柄本明)を拒絶することを決意し、ついに滅亡させたのと同じように、夏目家の三人も緒方家の三人もそれぞれ決意して行動し始めた。人間らしく極めてささやかではあったが、重要な決意であるには相違なかった。中で特に印象深かったのは、ベラの「よいと思ったものには一途なんだよ」という言葉をそのまま自身の信条として発言できるようになった緒方小春の明るい表情だった。
他方、夏目章規の決意が既に今宵の前半において表されていたところも見落とせない。彼は刑事として、人間の社会で人間として正義の見方であろうとする中で、目標とする人物像、「なりたい自分」として親友ベムを見出していたのだ。ベムはそのときは人間になりたいと思っていたが、夏目章規はベムのような、人間とは違って正義と善のみを貫くことのできる生き方への憧れを表明した。これがベムの決意に無関係だったとは思えない。
往年の名作アニメの実写化としては稀有な成功例になったと云えるのではないだろうか。