新番組=金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク第一話

今宵からの新番組。
金曜ナイトドラマ13歳のハローワーク」。
村上龍の著書『13歳のハローワーク』に基づくテレヴィドラマだそうだが、生憎この原作を読んでいないので、物語については語り辛いが、一見するに、大がかりな物語を一時間の枠内に上手くまとめていて面白かった。
主人公の小暮鉄平(松岡昌宏)は東京都の警察官で三十五歳。彼が突然、二十二年前に引き戻された。そこには当然、二十二年前の彼自身、十三歳のテッペイ(田中偉登)がいて、能天気に生活していた。三十五歳の彼は自身の人生をもっと理想的な充実したものに変えようと企て、そのために十三歳の自分自身を叱咤し、目標へ向けて大いに努力させることにした…というのが物語の発端。
だが、その過程で彼は所謂「地上げ屋」に狙われた街の小さな古書店に関係を持つに至り、古書店主の子息、秋葉修介(堀江晶太)の人生に大きな変革を生じる契機を作ることにもなった。それが第一話の核をなした。
十三歳のテッペイの友の一人が三上純一中川大志)。とはいえ中学校における友人ではなく、予備校における友人であるらしい。予備校の教室では第二位の好成績を誇り、その点ではテッペイとは対照的な少年であるとも見受ける。この三上純一を演じる中川大志が昨年の水曜ドラマ「家政婦のミタ」で阿須田家の長男を演じていたのは記憶に新しい。
ところで、今宵の第一話では(そして恐らくは次週の第二話でも)「バブル」ということが、風俗の描写においても、台詞においても、そしてもちろん設定においても繰り返し強調されていた。実際、平成初頭のバブル景気とその崩壊は、無意味に加熱した期待と無益に安定した失望との間の落差によって、多くの人々の人生設計を狂わせたに相違ない。
劇中の、二十二年前の予備校講師、真野翔子(桐谷美玲)は予備校に通う十三歳の少年少女を前にして「学歴社会」の現実を力説し、学歴を身につけておけば人生は何とでもなると述べていたが、無論この種の話は今日では戯言にしか聞こえないだろう。それは換言すれば、二十二年前の人々が当然の権利として想定することのできた将来像、人生設計が、その直後には成立しなくなってしまったということに他ならない。しかるに社会が人生の予測可能性を保証できない程に安定性を見失うということは、失敗から立ち直る道を失うということである以上、人々から冒険心を奪い去り、活力を喪失するということに繋がる。しかも不況下では本来は避けなければならなかったはずの各種の構造改革が繰り返され、事態をさらに深刻に悪化させた。なぜなら構造改革の目的は、世界中どこでも一致して、一部の者に富を集中させることにあるからだ。他の大勢の人間は、「柔軟化」された安価な労働力であるしかなくなる。そうした中で一部の富裕層には属していない大勢の少年少女に明るい将来を夢見させることは到底不可能ではないのだろうか。
この深夜テレヴィドラマが一体どこまで鋭く問題提起するのかは判らないし、テレビ朝日朝日新聞構造改革派であるから期待するだけ無駄だろうが、視聴者の自由な鑑賞の立場として、重要な問題提起の契機の可能性を孕んだ番組として見てもよいのではないかと思う。