渡る世間は鬼ばかり特別篇後篇

休日。夜七時の少し前に近所の店に出かけて直ぐに戻った他には一歩も外へ出ようともしなかった一日。かなり寝たのに、なおも眠い。
ところで。
橋田寿賀子ドラマ「橋田壽賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
二週連続二時間特別篇の後篇。
昨年の九月二十九日の第十部第四十七話までの話を踏まえて、先週の前篇と今宵の後篇を振り返るに、この二週にわたった合計四時間の話に生じた最も大きな変化は、長谷部力矢(丹羽貞仁)が小島眞(えなりかずき)に助けてもらって予て淡い交際中だった金沢育美(寺島咲)に唐突に結婚を申込み、同意を得て、有馬温泉にある実家の旅館で、妹の長谷部まひる(西原亜希)が料理人の森山壮太(長谷川純)と結婚式を挙行した際に、一緒に結婚式を挙げることができたということにある。
小島家にしても岡倉家にしても本間家にしても特に大きな異変があったわけでもなく、高橋家や大原家については無事を確認したに過ぎず、野田家は異常だったが、異常であることが常態であるから問題なく、相変わらずの様子でしかなかった。ドラマティクと云えるドラマは事実上、この長谷部力也の周辺にしかなかったと云うも過言ではなく、この合計四時間のドラマにおける事実上の主人公は長谷部力矢だったのではないのか?とさえ疑われる程だった。
…と思わせたところで最後に、相変わらず微妙な間柄にとどまっていた小島眞と大井貴子とが夫婦の愛を再確認し合って、生まれ変わったかのように幸福な顔を見せたことで何となく、彼と小島家ラーメン店「幸楽」の人々が物語の主であり続けたかのような印象のみを与えた。
なるほど、結婚から一年後の数日間の別居を小島眞にさせたのは、最後にこのような場面を置いてその印象を最大化するための措置(「伏線」)だったようだ。
しかし不図想像してみるに、作者の橋田寿賀子も正直なところ今や長谷部力矢の周辺にしか興味を持てないでいるのではないだろうか。他の主要な登場人物は二十年間の長大な物語の中で色々あらぬ方向へ動かされ続け、振り回され続け、余りにも複雑な過去を背負い過ぎて、もはや負担をかけられない程の状態に至っている。
例えば、他人同士で寄り集まって奇妙な大家族を拵えてしまった野田家には、当主である野田良(前田吟)が健康を害しようものなら(実際、何時そうなっても不自然ではないはずの年齢ではあるが)、直ぐに家計の破綻が生じて一家の崩壊、離散を見るかもしれないという巨大な危険性がある。
あるいは本間家にも、本間長子(藤田朋子)の実家である高級料理店「おかくら」の主人、岡倉大吉(宇津井健)の、まるで尽きることを知らないかのように莫大な資産が、親族や関係者からの返済の意志もなさそうな投資の依頼に応じて大きな支出を重ねた末に遂に尽き、底を突いて、そこからの支援が絶えれば破産するかもしれないという不安がある。
しかるに、そうした破局を発生させて激動を描き、二十年間かけて築き上げた世界を崩壊させて終焉させてしまう度胸は、流石の橋田寿賀子にもないだろう。現実の世界は既にそうした事態に満ちているようにも思われるが、多分、功成り名遂げた富裕の脚本家には縁がない。そうであるなら、最近になって物語へ参入したに過ぎず、ゆえに大した過去を背負っていない長谷部力矢で話を拵えておくのが無難な選択だったに相違ない。