仮面ライダー鎧武第三話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三話「衝撃!ライバルがバナナ変身!」。
蜜柑のロックシードを用いてアーマードライダー鎧武に変身し、自らインベスゲームの戦闘員と化した葛葉紘汰(佐野岳)の快進撃で、ダンス集団「鎧武」はダンス合戦における順位を最下位から一気に上げてきた。もともとダンスの面白さで人気を誇っていたと思しい「鎧武」は、ダンス合戦へのインベスゲームの導入に伴って地位の低下に悩まされていたが、ここに来て空前の大人気を獲得しているようだ。だが、それはダンスに対する人気ではなく、アーマードライダー鎧武に対する人気でしかない。ダンス合戦は今やインベスゲームでしかない。
そのことは駆紋戒斗(小林豊)率いるダンス集団「バロン」のダンスが不人気であることからも判る。インベスゲームにおける強さでダンス合戦を制してきた「バロン」がダンスを始めるや、客が去って行った場面は第二話にあったと記憶する。
アーマードライダー鎧武の快進撃に焦っていた駆紋戒斗に、ロックシード密売人のシド(浪岡一喜)は近寄り、ダンス合戦の活性化のため、戦極ドライバーを提供した。喜んで飛び付いた駆紋戒斗はバナナのロックシードを用いてアーマードライダーに変身した。彼の子分のザック(松田岳)とペコ(百瀬朔)はそれをバナナと呼んだが、当人はアーマードライダーバロンを名乗った。
こうしてダンス合戦は、ダンスの技とは全く関係なく、経済力だけで勝負の決まるインベスゲームから、さらには何によって勝負が決まるのかも定かではないアーマードライダー同士の戦闘にまで変化しつつあるわけだが、それは全て、必要な道具を流通させている「錠前ディーラー」のシドと、ダンス合戦の模様をインターネット等を通じて実況放送して、沢芽市民間の共通の話題になるまで煽っているDJサガラ(山口智充)の仕業であるとしか思えない。その影に沢芽市を支配する大企業ユグドラシルがあるのも明白だろう。
ここで注目すべきは、今朝の話の前半、葛葉紘汰が「レイドワイルド」の初瀬亮二(白又敦)から挑まれたインベスゲームにアーマードライダー鎧武の力で鮮やかに圧勝して大観衆を熱狂させたあと、多額の「賞金」を獲得していたことだ。
ダンス集団「鎧武」に復帰するに伴って仕事を全て辞めてしまった葛葉紘汰は、真面目に働いていたとき得ていた収入よりも多額の収入を得たわけだが、姉の葛葉晶(泉里香)はそれを喜ばなかった。仕事は誰かの役に立つことでなければならないからだ。空腹の人に食事を届けること、家を綺麗に掃除することは世の中に貢献することだが、インベスゲームで勝つことは仲間内の喜びでしかない。そんなのは仕事ではないのだと云うのだ。
確かにその通りだが、現に葛葉紘汰はインベスゲームで「特別な賞金」を獲得したのだ。当然、彼の活躍によって何か利益や快楽を得ている者がいるはずだが、それは彼の仲間内ではないと見られる。ゆえにそれはダンス合戦を主催している者であるに相違ない。ユグドラシル以外の該当者は、今のところ番組内には見当たらない。
沢芽市内に巨大な城を構える大企業ユグドラシル。その力を想像させる要素は、呉島光実(高杉真宙)の高校生活の場面にあった。
私生活ではダンス集団「鎧武」の一員として活動し、恐らくは高司舞(志田友美)に片想いを抱きつつ、親分肌の葛葉紘汰を慕い、その実は、高司舞と葛葉紘汰が「似合いのカップル」と評されているのを複雑な思いで見詰めている複雑な少年、呉島光実は、反面、優等生が寸暇を惜しんで競走し続ける高等学校において、他の優等生から敬服される程の優等生であるらしい。市中で大流行しているダンス合戦やインベスゲームも、この学校内で話題になることはなく、話題にする者は馬鹿にされる。沢芽市における一握りの優等生と、圧倒的多数の人々との格差社会をここに垣間見ることができる。
問題は、呉島光実の通っている高等学校が「私立天樹高等学校」であり、その設置と経営の主体がユグドラシルであることだ。この大企業は沢芽市の教育をも左右していると見受ける。なぜなら市中の経済を支配する大企業が市中の優等生を自社の学校に集めて特権化してしまえば、そこから排除された公立学校は多大の影響を受けざるを得ないからだ。公立学校の教育の荒廃こそがビートライダーズと呼ばれる不良少年たちを大量に発生させる原因をなしている恐れもないとは云えない。