仮面ライダー鎧武第三十九話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第三十九話「決死のタワー突入作戦!」。
物語は結末へ向けて一気に走り始めた感がある。今回の話は実に主人公が走り始めたのを描いた。行動を起こすのは葛葉紘汰(佐野岳)だが、進めるには駆紋戒斗(小林豊)の手助けが必要だった。二人が手を携え、皆が付き従ったが、途上で皆が別々に行動しなければならなくなった。
発端は前回の話の最後の、呉島光実(高杉真宙)が高司舞(志田友美)を自身の居城へ連れ去ろうとして、それを邪魔しようとしたペコ(百瀬朔)を人質にして打ちのめし、結局、高司舞を誘拐した事件にあった。高司舞を連れ戻すべく葛葉紘汰はユグドラシルタワーへの突入を決意し、駆紋戒斗はそれを無謀であると批判しながらも行動を共にすることを決意して、ザック(松田岳)も、城乃内秀保(松田凌)も、さらには凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)までも同行を決めた。ペコも一緒に行きたがったが、負傷して寝込んでいた上にそもそもアーマードライダーに変身できるわけでもない彼は、看病してくれているチャッキー(香音)と二人で留守番。出陣の一向には湊耀子(佃井皆美)も加わって、ユグドラシルタワーへの秘密の侵入路を知る「プロフェッサー凌馬」こと戦極凌馬(青木玄徳)に道案内を求めた。侵入路は沢芽市外にあり、一行は大きな車で目的地へ走っていたが、市外へ出る途上、大勢のインベスによる襲撃を受けた。ここで城乃内秀保と凰蓮・ピエール・アルフォンゾが車を降りてインベスによる攻撃を食い止め、他の五人で目的地に着いたが、侵入路の入口には、それを拵えた戦極凌馬自身が侵入者を食い止めるために設置しておいた武装ロボットがあり、凄まじい攻撃を仕掛けてきたので、駆紋戒斗は葛葉紘汰を先へ進めてやるため、ザックと湊耀子とともにそこへ留まって攻撃を食い止めることにした。こうして七人の軍は徐々に減って、残ったのは葛葉紘汰と戦極凌馬の二人だけ。皆を信じようとする者と、誰も信じない者。沢芽市内の鎧武のガレージからここへ来るまでの道中も戦極凌馬は常に皆の戦闘を観察しては「データ」の採集、武力の研究に没頭していて、何かを企んでいる様子は明白だったが、今は共闘する他に道がないのだ。まさに「奇妙な道中」になっていた。
この間、呉島光実は再び不安に苛まれていた。先ずは彼は、自身の居城であるユグドラシルタワーに自ら招いていたラット(小澤廉)とリカ(美菜)の二名が何時の間にか緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)によって捉えられて、生命力を採取する機械に組み込まれていたのを発見した。己の云い付けを守らなかった両名が犠牲者にされていた事実を、彼はあっさり受け入れたとはいえ、レデュエが決して信頼できる仲間ではないことを改めて思い知らされたろう。しかもレデュエは、「黄金の果実」の祝福を既に半ば受けている葛葉紘汰が呉島光実にとっては強敵であることを強調し、打ち克つためには、高司舞を利用してはどうかと提案した。もちろん呉島光実がこの提案に肯くはずはない。解っていて敢えてレデュエは提案したに決まっている。狙いは嘲笑することにあったのだろうが、流石の呉島光実も、その一点については壊れるわけにはゆかない。強く抵抗したが、この瞬間、彼の最大の弱点が高司舞にあることをレデュエは明確に認識し得たに相違ない。危険な事態。呉島光実も、レデュエを信頼して一緒に行動することの恐ろしさを再認識して、漸く当然の不安に苛まれたのだろう。
不安を打開するための奇策として彼は、高司舞をヘルヘイムの森にある岩石の城の奥の、白色のオーバーロードの王、ロシュオ(声:中田譲治)に預かってもらうことにした。呉島光実は、高司舞が大切な人であることをロシュオに理解してもらおうとして、却って良くない説明をした。高司舞がロシュオによって価値を認められないなら、全人類に価値が認められ余地もなく、滅亡を受け入れるしかないと述べたのだ。しかしロシュオが人類を軽蔑している一番の理由は、人類が「アーク計画」と称して人類の半ばを自ら見殺しにしようとしていた点に救いがたい愚かしさを見出したところにある以上、呉島光実のこの言は、人類の愚かしさの壮大な実例にしかなっていないと云わざるを得ない。
そのことを際立たせたのは、皮肉にも、高司舞の言だった。呉島光実がヘルヘイムの森から退出したあと、ロシュオは高司舞と会話し、呉島光実によって唯一守られようとしているこの人物が、呉島光実とは正反対に、あらゆる人を信頼し、価値を認めようとしていることを知った。フェムシンム類が持ち合わせなかった希望を人類も持ち合わせないらしいことを、呉島光実はロシュオに感じさせたに相違ないが、呉島光実が連れてきた高司舞は、フェムシンム類が持ち合わせなかった希望を人類は持ち合わせるのかもしれないことを感じさせた可能性がある。