富豪刑事・最終回

テレビ朝日系-木曜ドラマ「富豪刑事」。筒井康隆原作。蒔田光治福田卓郎脚本。長江俊和演出。深田恭子主演。第十話=最終回。
富豪刑事の美和子(深田恭子)の祖父の神戸喜久右衛門(夏八木勲)を宿敵として憎んでいる政財界の重鎮、瀬崎龍平(筒井康隆)が今回ついに美和子の前に出現し、かつて喜久右衛門の犯した罪について暴露した。彼の学生時代の初恋の相手が、事故に遭いそうになったときに喜久右衛門に救われて以来、喜久右衛門に恋してしまい、それで瀬崎龍平は潔く身を引いたものの、金儲けに夢中だった喜久右衛門はその女に対し冷たかった…というのが瀬崎龍平の語る喜久右衛門の犯した許し難い「悪行」の真相だった。何と!純愛の話だったのだ。凄い真相だ。流石だ「瀬崎様」。
喜久右衛門に罪を着せた殺人事件の黒幕だった神奈川県警察本部刑事部長の大谷重雄(及川光博)と、彼の配下だった川村春雄(松崎しげる)の一味によって美和子と喜久右衛門は絶体絶命の危機に陥ったが、そこに出現した瀬崎龍平は、美和子と喜久右衛門を救出しようとした。美和子の何時もの勘違いによって「本当は優しくて、心のきれいな人」扱いをされたのが密かに嬉しかったらしい。ところが、甚だ悲しいことに喜久右衛門は瀬崎龍平のことを全く憶えていなかったのだ。おまけに瀬崎龍平の美人秘書までも喜久右衛門を助け起こそうと走り寄ってしまった。怒り、悲しみ、悔しさの余り瀬崎龍平は救出を中断して去ってしまった。流石だ「瀬崎様」。結局は一人で騒いでいたに過ぎなかったのだ。劇中劇「瀬崎龍平伝」は期待通りの結末を見た。
最終回に相応しく見所が実に豊かだったが、特に刑事たちはそれぞれ何時になく大活躍を見せた。布引刑事(寺島進)が最高に颯爽としていたのも何時も以上だったし、狐塚刑事(相島一之)が布引刑事の株を奪ったときの布引刑事の少し悔しそうな顔も見ものだった。西島刑事(載寧龍二)は金の計算に強く、猿渡刑事(鈴木一真)は今回も困っていた。鶴岡刑事(升毅)は言い訳がましく、鎌倉警部(山下真司)は最後まで詰めが甘かった。
しかし、何よりも凄かったのは美和子が「あの、一寸よろしいでしょうか?」と声を上げてからの急展開だ。「お金で命は守れないと云いましたよね?あなたたちは間違っています!」と宣言して、喜久右衛門が美和子救出のため持参した莫大な身代金をバラ撒き始めた美和子!殺人犯の手下の者たちは宙に舞う金に夢中になって持ち場を離れ、その隙に美和子を抱き締め楯になり体を張って守ろうとした西島!絶叫しながら銃を放ち川村春雄を撃ち落としたヤクザ刑事の布引!だが、真の凄みはそのあとに来た。莫大な身代金の紙幣は東京上空を舞い、太平洋を越えて米国にまで届いた。全世界に広がり、雪のように舞い散る紙幣に、人々は驚き、喜び、我を忘れて拾い続けた。凶悪犯も、警察も、報道者も、そしてもちろん通行人も。面白くも、実に狂気の相をも帯びた荘厳な最終回だったと云えるだろう。