渡る世間は鬼ばかり第三十七話

TBS系。橋田寿賀子ドラマ「橋田寿賀子ドラマ渡る世間は鬼ばかり」。
作(脚本):橋田寿賀子。音楽:羽田健太郎。ナレーション:石坂浩二。演出:荒井光明。プロデューサー:石井ふく子。第九部第三十七話。
高橋文子(中田喜子)は、ハワイでホテルを営んでいる夫の高橋亨三田村邦彦)と長男の高橋望(冨田真之介)の邸宅に同居すべくハワイへの移住を決意し、先ずは話し合いのため現地を訪ねたが、その広々とした邸内で家事を取り仕切る女中ナンシー(藤谷美紀)の完璧な仕事振りを目の当たりにして、亨とナンシーとの間には単なる労使関係を超えた愛情のあるだろうことを感受し、己の居場所のなさを感じ、結局、これまで通り別居を続けるのが己の身のためであると思い、もし夫がナンシーとの再婚を希望するなら夫の幸福のために自ら身を引き離婚をも辞さないことをさえも決意した。
文子のこの決意を、理解できないわけではない。もちろん無責任な第三者としての視聴者の立場から云えば、夫の亨は妻との同居を強く望んでいるのだから、文子はもっと堂々開き直って、高橋家の女当主として女中ナンシーを存分に使役する優雅な身分を享受しておけばよいではないか!と考えることもできるのだ。でも、文子の眼には、ナンシーが単なる女中に過ぎないとは思えない。その前提として、望が事前にハワイから日本へ緊急帰国して「父さんには女がいる」と密告してきたことがある。その所為で文子はナンシーをもはや夫の愛人として、ライヴァルとしてしか見ることができない。それだからこそナンシーの完璧な仕事振りを見せ付けられて敗北感を抱くほかなかったのだ。この心理描写には道理がある。