仮面ライダー鎧武第四十一話

平成「仮面ライダー」第十五作「仮面ライダー鎧武」。
第四十一話「激突!オーバーロードの王」。
旧いオーバーロードの王が逝き、新たなオーバーロードの王が生まれた。
ヘルヘイムの森の洞窟の奥の王城の、白色のオーバーロードの王、ロシュオ(声:中田譲治)は、そうなることを望んでいたように見える。ロシュオは、人類のために生じていた「黄金の果実」、「知恵の実」を、人類に失望して既に横領してはいたが、今、かつて彼の愛する亡き王妃(岩崎ひろみ)がフェムシンム類の世界に対して抱いていたのと同じ希望を、高司舞(志田友美)が人類の世界に対して抱いているのを認めるや、人類の行方を最後まで見届ける役目をこの人類の少女に託し、保有していた「知恵の実」を授けた。高司舞は神の力の源泉である「知恵の実」を体内に蔵し、神のような存在と化した。やはり「始まりの女」(志田友美)は高司舞だったのだろうか。
こうして最も大切な役目を高司舞に託して人類の世界へ帰還させたあと、ロシュオは「最後の責務」を果たすため、玉座で待つことにした。何を待つのか。高司舞が希望を見出している人物は本当に新たなオーバーロードの王になり得るのか、そのための覚悟を決めているのかを見定めるため、その人物が登場するのを待ち構えていたのだ。
やがて待望の人物は姿を現した。もちろん、葛葉紘汰(佐野岳)に他ならない。
このとき葛葉紘汰の傍らには駆紋戒斗(小林豊)も同道していたが、ロシュオが待っていたのは明らかに葛葉紘汰だけだったろう。なぜなら彼こそはDJサガラ(山口智充)を経由して「知恵の実」を受け取った者であり、DJサガラに目を付けられた理由が「始まりの女」に目を付けられていたからである以上、彼こそは選ばれるべくして選ばれた者であると認められるからだ。彼との戦闘の中でロシュオが「どうした?それが全力ではあるまい!」と云い放ったところに、本心が表れていたと云える。
フェムシンム類の「長」であるロシュオは、同胞を滅ぼし合った愚かなフェムシン類に失望し、フェムシンム類の滅亡を望んで、自らも一緒に死にゆくことを既に決意しながら、人類の新たな王の候補者の力を試し、本当に希望を託してよいかどうかを確かめたかったのだろう。換言すれば、既に「知恵の実」の一部を獲得したことでオーバーロードになろうとしている葛葉紘汰が、己を犠牲にしてでも人類を救済しようとして自ら完全にオーバーロードに変貌するところまでを見届けたかったのではないだろうか。
ロシュオはその瞬間を促そうとするかのように盛んに葛葉紘汰を挑発し続け、ついに葛葉紘汰が「知恵の実」の一欠片の力である「極アームズ」に変身する「覚悟」を見せたところまでは見届けたが、そこまでだった。変貌の瞬間が訪れる前に、愚かな臣下の中で最も愚かな緑色のオーバーロード、レデュエ(声:津田健次郎)によって背後から不意を突かれ、無残に討たれたからだ。
レデュエの狙いはロシュオの体内から「知恵の実」を奪うことにあったが、奪い得たものは「知恵の実」の残骸だった。当然だろう。本物は高司舞に託されたからだ。討たれたロシュオは愛する亡き王妃の許へ赴き得ることを喜んだが、怒り狂うレデュエはロシュオを酷くも撲殺した。その瞬間だった。冷酷残忍なレデュエに対する義憤から、葛葉紘汰はオーバーロードと化した。
思うに、ロシュオは予想できていたのではないだろうか。己を惨殺するレデュエの非道に対する怒りこそは葛葉紘汰を完全に覚醒させ、新たな王として生まれ変わらせるだろうことを。己との死闘の過程で葛葉紘汰が「極アームズ」を用いたこと自体が既に葛葉紘汰をオーバーロードに変貌させるに足りていると見たからこそ、ヘルヘイムの河原に倒れていた葛葉紘汰に対して、ロシュオは「葛葉紘汰よ、確かに見届けたぞ、おまえの覚悟を」と語りかけたに相違ない。変貌を完成させるには一撃を加えれば良いと見たのではなかったか。そしてその一撃を、ロシュオは自ら与えようと思っていたのだろう。だが、そこにおいてロシュオはレデュエの不意討ちに遭った。王にしては余りにも哀れな最期を急に迎えなければならなかったわけだが、それにもかかわらずロシュオが安らかだったのは、多分、己に対するレデュエの一撃がそのまま、葛葉紘汰の精神への一撃ともなって、完全な覚醒、完全な変貌を促すに違いないことを予想できていたからだろう。
慈悲深く偉大な王、ロシュオは「最後の責務」を十分に果たし得たのだ。
怒りに震えながら「レデュエ!おまえみたいな奴は、ここで俺が打っ潰す!」と叫んだ葛葉紘汰が、両目を赤く光らせ、全身に力を漲らせ、ロシュオに破壊されていたロックシードを甦らせて「極アームズ」に変身し、ロシュオのように瞬間移動の技を使い、ロシュオのようにヘルヘイムの植物を自在に操り、ロシュオの剣を振り回してレデュエを圧倒した場面は、今までも常に自身のためではなく誰かのために奮闘し続けてきた彼の本質が今や最大限に開花したことを表していた。第一話から繰り返し描かれてきた彼の「おひとよし」な性格こそが神性に最も近い真の強さだったことを感じさせた。
葛葉紘汰が己の本質に持っていた神性を完全に開花させたのに対し、呉島光実(高杉真宙)は己の本質における救いがたい愚かしさを完全に表出した。
しかも呉島光実の愚かしさは、愚かなフェムシンム類の中で最も狡猾で最も愚かなレデュエによって嘲笑されたことで、強烈に表現された。「考えてもみなよ、ロシュオが本当にあの女を気に入ったら、おまえみたいな危ない奴の傍に置いておくわけないだろう」。さらに追い打ちをかけるかのように呉島貴虎(久保田悠来)の亡霊までも現れて、「おまえのことなど誰も信頼していない。本当に価値がない人間は、光実、おまえ一人だけだ」と告げた。この呉島貴虎はレデュエが催眠術で出現させた悪夢であるのかもしれないが、呉島光実が今までも度々亡き兄の幻影に悩まされてきたのを踏まえれば、今回のも呉島光実の病んだ精神の内に微かに残る良心によって生み出されたと見てよいだろう。そうであれば彼は己の言動が救いようもない程に極めて異常な方向へ暴走していることを、微かに自覚できていると見られるのか。
なお、人間界へ戻された高司舞は、疲れ果てた身体で辛うじて「チーム鎧武」の拠点であるガレージへ帰着した。そこにはチャッキー(香音)とペコ(百瀬朔)が留守番をしていた。ペコは上半身裸に包帯を巻きつけて寝ていて、呉島光実から受けた暴行による負傷から今なお回復できていないらしい。他方、城乃内秀保(松田凌)と凰蓮・ピエール・アルフォンゾ(吉田メタル)は大活躍。葛葉紘汰や駆紋戒斗を後方支援するため呉島光実の足止めに努め、成功した。ここにおいて凰蓮・ピエール・アルフォンゾには「メロンの君」の仇討という目的もあったのは、視聴者の期待に応えるものだったと云える。