大奥・第一章スペシャル

フジテレビ系ドラマ「大奥・第一章スペシャル」。夜九時から二時間半の番組。昨年十月から十二月にかけて放送された「大奥・第一章」の特別篇。昨年のドラマで主人公だったのは春日局松下由樹)だが、この特別篇が描くのは春日局の没後八年、徳川家光西島秀俊)晩年の或る日。病床の将軍の前で御台所孝子(木村多江)と楽(京野ことみ)が昔日の罪を悔いて春日局の偉大な生涯を懐想した。
その合間には玉(星野真理)の権謀術数や、玉の子の徳松(須賀健太)と将軍との交流をも描いた。面白かったのは徳松が昔日の家光=竹千代(須賀健太一人二役)に重ね合わされ、玉が昔日の春日局に重ね合わされたところだ。大奥に入ったばかりの玉が大奥に入ったばかりの春日局=福によく似ているとは、昨年の「大奥・第一章」において御年寄の朝比奈(梶芽衣子)が述べたことだった。徳松が血を見るのを嫌い、狩を苦手としたところも面白い。なにしろ彼こそがのちに生類憐み法令群によって生命の尊厳と慈悲心の必要性を説くことになるからだ。また家光の懐想中に登場した二代将軍秀忠(渡辺いっけい)が「何事も不得手の方が、立ち止まって充分に考えて、周囲を見渡すことができるのだ」と諭したのはよい場面だった。
昨年のドラマでは福が参内し禁裏=後水尾院から従三位の位階と春日局の称号を授与される場面が描かれなかったが、今宵その場面が再現された。
葛岡(鷲尾真知子)・吉野(山口香緒里)・浦尾(久保田磨希)の「美味で御座ります」「有難や有難や」の大奥スリーアミーゴスが大奥炎上の場で見せた結束も一寸よかった。やはりこのドラマには朝比奈(梶芽衣子)と春日局松下由樹)と江与(高島礼子)とともにこの三馬鹿トリオが必要なのだ。なお、楽のかつての恋人、宗兵衛(永山たかし)も再登場した。
御台所の懐想に登場した武家伝奏賀集利樹)。南小路時靖という名だったが、もちろん実在の人物ではないだろう。それどころか南小路という公家も存在しないかと思う。江戸時代の宮廷社会を知悉していた下橋敬長の著名な懐古録『幕末の宮廷』が偶々今手元にないが、取り敢えず河鰭実英『有職故実』所収の「公家一覧表」を見れば南小路家の記載はない。和田英松『官職要解』によれば江戸時代の伝奏は「納言、参議のなかから学才があって弁舌のよいものを選んで補せられた」わけだから、藤原氏村上源氏かの何れかの上流貴族の出身だろう。ちなみに北小路家であれば三家ある。藤原氏の日野家に一軒。大江家に一軒。官務家に一軒。だが、これら三軒が果たして武家伝奏になる程の家柄であるのかどうかを知らない。