仮面ライダーディケイド第八話

東映仮面ライダーディケイド」。
第八話「ブレイド食堂いらっしゃいませ」。脚本:米村正二。監督:石田秀範。
二〇〇四年放送の「仮面ライダー剣ブレイド)」の世界をこんなにも大胆に、しかも絶妙に再生させた構想力に感動した。なるほど、あの「剣」では、多様な生物たちの祖先とも種的形相とも云える不死の生命体「アンデッド」たちが世界の王座を賭けて相互に競争していたところに、財団法人人類基盤史研究所(通称「ボード」)の技師としての仮面ライダーたちが参戦していたわけだが、この「剣」の世界では、アンデッド駆除を業務とする株式会社ボードの中で社員としての仮面ライダーたちが社内での昇進や昇給を賭けて競争しているのだ。一面では正反対の世界観と見えるが、実に絶妙な変換だ。
仮面ライダーブレイド=剣立カズマ(鈴木拡樹)、仮面ライダーギャレン=菱形サクヤ(成松慶彦)、仮面ライダーレンゲル=黒葉ムツキ(川原一馬)の三人は、二〇〇四年の剣崎一真(椿隆之)、橘朔也(天野浩成)、上城睦月(北条隆博)の雰囲気を見事に再現していたように思う。特に剣立カズマ役の鈴木拡樹は、かつての剣崎一真が表情には出さなかった激情や不屈の闘志や金銭欲までも豊かに表現していて、既に文句なく新たなブレイド像を実現し得ている。黒葉ムツキの非情とか、菱形サクヤの官僚的な体質とか、見ていて懐かしく感じる程の再現力だった気がする。
株式会社ボードの代表取締役社長は四条ハジメ(累央)。ハジメという名は仮面ライダーカリス=「ジョーカー」=相川始(森本亮治)を想起させるが、同時に、四条という姓は人類基盤史研究所長の烏丸啓山路和弘)を想起させるかもしれない。烏丸通は南北に伸び、四条通は東西に伸びる。
そして、この「剣」の世界に上陸した仮面ライダーディケイド=門矢士(井上正大)は株式会社ボードの社員食堂のチーフ(=シェフ)。初めはボードの非情の経営方針に反発し、「サラリーマンになる気はない!」と言い放った彼も、三人の部下たち(内一人を演じるのは「野ブタ。をプロデュース」にも悪役で出演していた柊瑠美!)から「社長からボーナスが出る」由を聞くや、急に意欲を見せ始めた。しかも仮面ライダーとしての力量を買われて十一階級特進をも発令され、逆に降格された剣立カズマの上司になってしまった。
剣立カズマが降格処分になったのは、アンデッド退治よりも人命救助を優先したことが組織の指示に違反する行為と見られたからだった。組織の命令に従うよりも個人の信念に従ったのだ。しかも、それが自己を守るよりも他人を守ろうとする信念である点が、流石に剣崎一真に近い。
何一つ問題があるとは思えない些細なことを理由に降格になったばかりか、社員食堂で新人として勤務することを命じられ、上司の門矢士から散々こき使われて、挫けそうになっていたところに追い討ちをかけるかのように菱形サクヤと黒葉ムツキからの嫌がらせを受けて、ついに職場を放棄しようとしたとき、小野寺ユウスケ(村井良大)が現れて、どんなに辛くても自分の居場所に踏み止まるべきことを訴えた。あのときの眼差しの強さ。愛らしい顔と柔らかな存在感のある彼には、人の心を射るような圧倒的に強い眼差し、眼の力があって、彼の信念に説得力を与えている。
仕事を投げ出しそうになっていた剣立カズマに対し、門矢士は「やる気がないなら、とっとと去れ!」と冷ややかに云い、それで去ろうとした剣立カズマを職場に押し戻した小野寺ユウスケは「それじゃ、負け犬だぞ?それでもいいのか?」と熱く云った。門矢士の言葉と小野寺ユウスケの言葉は正反対のようでいて実は同じ意味を表している。自分の居場所に確り踏み止まって必死に頑張れ!と云っている。居場所を失った二人が、それぞれの性格なりにそれを云っているのだ。小野寺ユウスケに見詰められて、それでも何かを云い返そうとした剣立カズマに、門矢士は、後姿を見せながら「カズマ!料理を運べ…」と命じた。鋭い眼で見詰める小野寺ユウスケと、背を向ける門矢士。正反対の恰好で同じことを云っている。美しいコンビネイション。
それでも結局、社長と衝突して会社から失踪した剣立カズマを連れ戻そうとした門矢士は「俺の出世を妨げる奴は、ただではおかない」と(恐らくは心にもないことを)云いつつ「部下の失態は上司である俺の失態でもある。今直ぐ社長に詫びを入れてこい!」とも付け加えた。この台詞も意外に味わい深い。失態をした部下を切り捨てるのが当世風であり、株式会社ボードの社風でもある。門矢士はそれに対してさり気なくも明確に異論を唱えていると読めるからだ。