仮面ライダーウィザード第十三話

平成「仮面ライダー」第十四作「仮面ライダーウィザード」。
第十三話「夢を継ぐ者」。
戦闘における勝利の快を際立たせながらも、微妙に残る苦味が話の味わいを深くした。なにしろ和菓子店の松木庵は、卑劣なファントムから受けた執拗な嫌がらせによる経営上の打撃から立ち直ることはなく、結局、廃業を免れなかったのだ。
とはいえ先週ここに書いたように、予て松木庵は心細い自転車操業、綱渡りのように不安定な経営を続けていたから、ファントムによる嫌がらせがなかったとしても、やがては閉店の覚悟を決めなければならなかったろうとも思われる。店主がそれでも和菓子を作り続けていたのは、店の味を守りたいという志とともに、唯一の愛弟子である稲垣徹也(石田卓也)を一人前の職人に育てたいという志があるからだった。
しかるに店主は、愛弟子を知人の和菓子店に再就職させる話を付けた。たとえ松木庵がなくなろうとも、徹也が松木庵の味を憶えていてくれるなら、いつか、どこかで、松木庵の和菓子の味を再興してくれるかもしれないと考えたのだ。
同じとき、徹也は松木庵の和菓子をあの料亭の女将に食べてもらって改めて契約を結んでもらいたいと考え、閉鎖中の松木庵に戻り、店主が百貨店に収めるために拵えた最後の新作である饅頭「きぼう」を再制作していた。その饅頭を食べた店主は、唯一の愛弟子が既に松木庵の味を継承してくれていたことを知ることができた。これで、たとえ松木庵を廃業しても松木庵の和菓子の味が伝承されて、いつか再興されるかもしれない希望が、確かな根拠を得たのだ。
これこそは松木庵が守られるための、現実味ある唯一の道であるに相違ない。
何か大きな奇跡が起きて松木庵が直ぐに蘇るような展開を期待したいところではあったが、反面、そのような展開は現実味がなく空々しくもある。甘さを抑制して苦味を交えた今回の結末は、現実世界において持つことのできる真の希望の姿を上手く表現していて納得ゆくものであるし、何よりも和菓子ならではの深みある甘味を連想させて味わい深い。
何よりも、この苦味ある結果へ事態を導いたヴァルキリーのファントムの卑劣な言動に対して視聴者の誰もが、ことに大人の視聴者が抱かざるを得ない憎しみは、吾等が魔法青年、ウィザード=操真晴人(白石隼也)の反撃を、今まで以上に格好よく美しく輝かせた。
物語の妙味は、操真晴人が多くの人々を守ることによって守られてもいることを明かしたところにある。彼はゲートの人々を襲撃するファントムを打倒するだけではなく、むしろファントムに襲われて絶望しかけていた人々のための「最後の希望」になることによってそれらの人々を救出してきたが、それは同時に、人々が見失いかけていた希望を救い上げて、云わば受け継いできたということでもあった。
あたかも、松木庵の最後の希望だった稲垣徹也のように。
店主は己の身よりも愛弟子の身を守りたいと思ったが、愛弟子の存在こそが店主の希望であり、愛弟子が無事に成長してゆくことが店主を幸福にし得る。生命をかけて何かを守ろうとする者は、己の守ろうとしたものが無事に正しく守られることによって真に平安を得る。
救うことと救われること、守ることと守られること、受け継ぐことと受け継がれることは、相互的であるよりはむしろ一体でさえあるのかもしれない。松木庵はそうだった。それを見た操真晴人は己もまた同じであると感じたのだ。