水球ヤンキース第四話

土ドラ「水球ヤンキース」第四話。
今回は霞野工業高等学校水球部の結成の陰の立役者とも云える奇妙な二人組、千秋亮(間宮祥太朗)と宮口幸喜(矢本悠馬)の間の、余りにも篤い信頼の関係と、それを生み出した過去の出来事が描かれた。
現在の両名を見る限り、派手な千秋亮と地味な宮口幸喜がどういうわけで仲良くなったのか不自然にも見えてしまうが、実は千秋亮も少し前までは地味な、大人しそうな中学生だったのだ。派手な髪型、派手な服装で、しかも「池袋ウエストゲートパーク」におけるキング(窪塚洋介)や「野ブタ。をプロデュース」における草野彰(山下智久)を想起させる奇妙な言動の様式で振る舞うのは、本来の弱々しい地味な人物像から脱却して、強くなりたいという意志の表れだった。しかもそれは、中学生のときの、ともに悪い奴に虐められていた千秋亮と宮口幸喜の間の約束に基づいていた。千秋亮は当時、悪い同級生に常に虐められていたが、別の学校に通っていた宮口幸喜までもが同じ奴に虐められたのを見るや、千秋亮は己の立場を顧みず勇敢にも立ち向かい、助け出そうとして返り討ちに遭ったことがあった。千秋亮こそ毎度のように虐められていた標的であるから救出に失敗したとしても無理もないが、千秋亮は己の弱さを悔しく思い、宮口幸喜に、「あんな奴に負けない位、強くなろうぜ」と約束した。そして中学校を卒業して霞野工業高等学校に入学した宮口幸喜は、まるで別人のように華美で明るくて強そうになった千秋亮に再会した。千秋亮は昔の出来事、昔の約束を一言も語らなかったから、宮口幸喜は千秋亮が昔のことなんか憶えているはずもないと思い込んでいたが、無論そんなはずはない。もし憶えていなかったなら、どうして派手に変貌した千秋亮は敢えて地味な宮口幸喜に自分からわざわざ接近し、常に一緒に行動したいと望んだのか。千秋亮は昔の約束を守るため、宮口幸喜と一緒に行動していた。
一緒に水球部に入ったのも、実は水蘭高等学校水球部の有力な選手である郷田剛(鈴木伸之)に打ち克つための絶好の機会であると見たからでもあった。なぜならこの郷田剛こそ、中学生時代の両名を虐めた張本人に他ならなかったからだ。これまでの三話を見ても水蘭高等学校水球部の連中、ことに郷田剛の柄の悪さは凄まじかったが、第四話では、彼が札付きの悪であり、殆ど暴力団予備軍としか思えない程の正真正銘の不良であると判明した。こんな人物が高等学校スポーツにおける有力選手であり得るのだろうか?と水蘭高等学校のためにも心配せざるを得ないが、その分、体型も一番よさそうな郷田剛は主将の北島虎雄(高木雄也)を軽く凌ぐ存在感を見せているとも云える。
同じように、今回の話では千秋亮と宮口幸喜の二人組、ことに千秋亮の人物像が大きな魅力を発揮して、主人公の稲葉尚弥(中島裕翔)や三船龍二山崎賢人)よりも生き生きと描かれたように見える。演じる間宮祥太朗は「弱くても勝てます。」でも強い魅力ある人物を演じたが、そのように役を造形したくなるような、あるいは演出したくなるような何かを彼が持ち合わせているのかもしれない。
木村朋生(千葉雄大)、志村公平(中川大志)、加東慎介(吉沢亮)の三人組は水球用の水着を恥ずかしがって嫌がっていた。水球用の水着は意外な程に厚手である上に、必ずしも極度に小さくもないが、ここ十年間ばかりの間のことだろうか、水着はどんどん布の面積を拡げてきたから抵抗を感じるのは無理もない。
不図思い出してみるに、大昔は水着といえば競泳用の水着が普通だったが、反面、布の面積は広めであるのが普通で、脇の細めの、布の面積の小さめの水着を用いていたのは水泳選手だけだったろう。学校の水泳の時間にはそうした格差が表れていた。やがて海水浴用の大きな水着が愛用されるようになったが、好景気の時代には世に「ブーメラン」と形容されるビキニ型の水着もテレヴィ等で盛んに紹介され、格差の拡大を見た。しかる所謂バブル景気の崩壊のあとの景気の悪化に連動するかどうかは定かではないが、競泳用の水着の世界で布の面積の拡大が始まり、面積の小さな水着は一部のマニアのみの欲望の対象でしかなくなったように見受ける。
とはいえ水球の世界のみはそうした時流にかかわりなく昔ながらの型を続けていたようで、現在、このテレヴィドラマの主演である中島裕翔が「ブーメラン」という古めかしい(そして水球用の水着に対して用いるのが適切であるのかどうか定かではない)形容をテレヴィ雑誌等のインタヴューで連発しているのは面白い。