仮面ライダーW(ダブル)第五話

東映仮面ライダーW(ダブル)」。
第五話「少女……A/パパは仮面ライダー」。
脚本:三条陸。監督:黒沢直輔
探偵青年の「おじさん」、左翔太郎(桐山漣)は、生まれ育った街「風都」を守りたくて探偵を志しただけのことはあって、流石に常識的な判断力を持っていて、ゆえに安心して見守ることができる。
彼は、今回の依頼人、市議会議員の楠原みやび(川田希)が政策を訴える場に必ずのように愛娘あすか(大村らら)を伴って、云わば子どもの力を借りて演説を展開していること自体に如何はしさを感じている。この如何はしさというのは、例えるなら選挙を「弔い合戦」と称する世襲候補の如何はしさによく似ているだろう。「泣く子と地頭には勝てぬ」とでも形容できる感情に訴える楠原議員の遣り方が、政治を無責任なものにする恐れと、子どもを危険にさらす恐れという二重の危険性を持つことを、翔太郎は見逃さなかった。
この物語は(これまでの五話を見る限り)全体として勧善懲悪の枠組を維持しているが、同時に、その枠組の中では、悪人にも情状酌量の余地があるかもしれないこと、逆に善人にも批判や非難の余地があるかもしれないことをも忘れずに描いてきている。「超天才」少年と形容される相棒フィリップ(菅田将暉)と比較されては翔太郎の頭脳の頼りなさが強調されがちだが、翔太郎の知性の真の強さは、個々の人々の行為に対する細やかな観察者であり、愛情のある判断者でありながらも、事件の全体に対しては妥協のない審判者でもある点に表れている。とはいえ翔太郎は私立探偵に過ぎない。謎の事件の解決へ向けて全力を尽くすが、解決それ自体は当事者や警察に委ねるしかない。全てを目撃して、風のように去るのだ。
全体としての勧善懲悪と、個人に対する細やかな見方。善悪の判断の二段階性とも云えるこの構造性が活きているのは「仮面ライダーW」が探偵物語であるからこそではあるが、思えば、先の「仮面ライダーディケイド」には何れの段階の善悪もなく、私利私欲のためには窃盗も殺人も辞さない悪人の海東大樹が英雄視される反面、どこまでも善良なユウスケが徹底的に馬鹿にされるような恐ろしさがあったのとは極めて対照的であるのは間違いない。
それにしても、このドラマを魅力的にしている要素は数多あるが、一つには、翔太郎の声が探偵物語の主人公としての、闘うヒーローとしての行動派の探偵に相応しいということがあると改めて気付いた。幼女に「おじさん」呼ばわりをされて少々落ち込んでいるときでも、依頼人に事実関係を問い質しているときでも、敵を追跡しているときでも、どんな台詞でも一々探偵らしさを醸し出してしまう声だ。探偵=翔太郎役に桐山漣を起用した人は、他の何よりも彼の声に最も魅了されて、起用を決めたのではないだろうか。
桐山漣との対照性を見せるのが園咲霧彦役の君沢ユウキ。今回ついに翔太郎と霧彦が同一画面に映る場面があった。言葉を交わすことこそなかったものの事実上の初対面であり、その一瞬は流石にドラマティクに描かれた。君沢ユウキは普通の人間を演じる限りは英雄的でさえある美男子の容姿の持ち主だが、特撮ヒーロードラマでは、誰にでも直ぐに騙される頼りにならない先輩ヒーローか若しくは悪役側の若き幹部か、何れかになりがちな容姿ではないだろうか。極度の美形の役割とはそういうものだ。常識を備えた熱血漢の翔太郎は複雑な現実の中で迷う局面もあるが、冷酷な霧彦は目的のためには現実を破壊することも辞さない。二人の容姿の対比は、そうした人物像の対比に上手く合っていると見える。
もっとも、今回は園咲霧彦の少々辛い立場が新たな視点からも改めて描かれた。彼は園咲家に婿入りをしたが、園咲家の皆から温かく迎えられたわけではなかったことは今までも散々描かれてきた。しかるに今回は、婿入りによって組織内で大出世を遂げた彼に対して組織の他の構成員から嫉妬され軽蔑されてもいることまでもが描かれたのだ。打たれ強い彼の前向きな性格なくしては容易には乗り切れない試練であるかもしれない。
秘密結社ミュージアムを通して風都を陰で支配しようとしている園咲一族の居城(その外観は上野恩賜公園東京国立博物館本館と瓜二つ)の大広間における園咲琉兵衛(寺田農)の怒りは、妙に正論として響く。楠原議員が推進する「第二風都タワー」建設計画が風都の景観を損なうものである!という主張は、その真意の程は現時点では定かではないが、一般論としては肯けそうだ。風都ならぬ京都において高層建築の建設に京都仏教会が反発し続けてきた事例を想起すれば、園咲琉兵衛の言い分こそが正しいとしか思えなくなる。だが、この問題について公平に公正に判定できるだけの材料は現時点では出てきていないのだ。園咲一族は善か、悪か。ここにも善悪の二段階構造が巧みに描き出されつつあると見ることができるかもしれない。
風都において街を守る正義の味方としての「仮面ライダー」の存在が一つの都市伝説として語られ始めた過程は、先週の第四話で確り語られたが、今朝の第五話では、楠原議員の演説を取材していた地元放送会社のカメラが市民のために闘う仮面ライダーWの勇姿を捉える場面があった。あの映像はドーパントからの射撃でカメラ諸共に焼失したのか、それとも無事に保存されて報道にも使われたのか。楠原議員の娘が持っていた仮面ライダー人形は仮面ライダーWには似ていなかったから、伝説の仮面ライダーの正確な姿は世間に未だ流通していなかったことが判る。だが、その存在が知られた今後は目撃情報も増えるだろうし、画像も流通するだろう。翔太郎とフィリップは仮面ライダーWの正体が自分たちであることを隠して活動しているが、今後さらに詳細が世間に知られるようになったとき、両名は果たしてどのような立場に置かれるのか。それもまた見所になるのだろうか。
物語の流れとは全く関係ないところで面白かったのは、フィリップの身体がバケツから抜けられないでいた話。本人が「検索には支障がない」という理由で全く気にしていなかったのも凄いが、鳴海亜樹子(山本ひかる)がそれを気にして何とかしようと色々やって、それが翔太郎とフィリップとの間の電話連絡には細かな邪魔になりながらも、それでも話の流れには何の影響もなく平然と進んでいたのだ。何の意味もないが、不可欠な話だったと思える。