ごくせん第7話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第七話。仲間由紀恵主演。
今回に至り明確化したのは、主人公ヤンクミ=山口久美子(仲間由紀恵)が実はとんでもない逆境に立たされていたということだ。かつてのヤンクミの職場だった白金学院高等学校には校長の白川権三(田山涼成)という強い味方がいた。教頭の猿渡五郎(生瀬勝久)は敵だったが、話の通じない汚い奴ではなかった。同僚の川嶋菊乃(中澤裕子)も助け舟を出してくれたし、刑事の篠原智也(沢村一樹)は学校の外部から後方支援をしてくれた。だが、今回は違った。ヤンクミの現在の職場、黒銀学院高等学校の理事長であり校長でもある黒川銀治(井上順)は、学校改革の過程で問題児の全員を三年D組に集め、校舎外の仮設校舎に隔離し、できれば何かテキトウな理由を付けて卒業前に退学させたいとさえ目論んでいて、彼ら問題児には将来はないと確信している。まさしくヤンクミの敵だ。しかも黒銀学院は黒川理事長の専制支配下にあり、そうなると猿渡教頭も「天敵」のヤンクミに対しては自ずから攻撃的にならざるを得ない。他の同僚たちも彼に従う。中で体育教師の馬場正義(東幹久)だけは常にヤンクミの味方をしてくれるし、英語教師の白鳥ひとみ(乙葉)も好意的だが、二人とも頼りにはならない。考えてみれば、ヤンクミを真に支えているのは三年D組の生徒たち二十七人だけなのだ。そして彼ら二十七人がヤンクミを支えるのは、ヤンクミが真の味方だと確信できたからだ。そうした連帯感だけがヤンクミと三年D組を勇気付けていた。
ところが、今回の第七話の末尾に至り、ヤンクミと三年D組に強力な理解者が現れたようだ。黒銀学院理事の松原(南田洋子)。大富豪で、黒銀学院に巨額の寄付をしていて、四月からは黒銀学院への孫の入学を予定している有力な人物。これに先立ち、今宵の第七話の冒頭に描かれた数日前の朝のこと。この人が満員バスで立っていたとき、座席を占拠していた高校生たち数人にヤンクミは怒り、叱り、「仁義」を説いて席を譲らせた。その極道の説教に感銘を受けていた松原理事は、黒銀学院を訪ねた際、職員室内にヤンクミの姿を見つけ、驚き、喜び、自分の孫の担任にはヤンクミが望ましいと理事長に要請したのだ。
さて、今回は三年D組の進路の対策が本格化した。先ずは土屋光(速水もこみち)・小島祐希(佐藤祐希)・大森百輔(水谷百輔)・浜口匠(杉浦匠)の四名が「ゲーセンの会社」ジョイフル産業の面接を受けることになり、彼らのためにヤンクミが模擬面接を行った。サングラスを外そうとしない浜口にヤンクミは注意したが、外したら「意外とツブラな瞳」だった。結局のところ彼らは面接の心得など何も知らないので模擬面接でさえ上手くはできない。そこで小田切竜(亀梨和也)・矢吹隼人(赤西仁)の提案で、先ずはヤンクミ自身が手本を見せることになった。小田切竜・矢吹隼人・土屋光・武田啓太(小池徹平)・日向浩介(小出恵介)が質問を出して、ヤンクミが真面目に応えたが、質問がどんどん妙な方向へ進んだ。
今や三年D組とヤンクミとの間には濃厚な連帯感がある。一つにはヤンクミ自身が再就職の問題で悩んでいたからでもあるだろうか。ヤンクミは三月末までの臨時職員として黒銀学院に雇われ、問題児だらけの学級の担任を任されたに過ぎない。四月前には解雇される予定だった。そのことを再確認させたのが今宵の第七話の冒頭であり、そうであるからこそ今宵の第七話の末尾における松原理事の登場には衝撃的な力があったわけだが、ともかくもヤンクミと三年D組は就職の問題を共有していて、それがまた両者の連帯感を強化したように見えた。
今宵の話で特筆するに値するのは、今や「ごくせん」名物とも云えるヤンクミ大乱闘の場面において、今宵は大乱闘が生じなかったことだ。小田切竜も矢吹隼人も土屋光も武田啓太も日向浩介も、敵対する轟高等学校の不良連中に非道く殴られ蹴られながらも反撃しなかったばかりか、救いに来たヤンクミまでも、殴られても手を出さなかったのだ。反撃しなくとも退くこともしなかったヤンクミの気迫に圧倒され、敵の不良どもは怯えて敗走した。見逃せないのは、敵たちがヤンクミの気迫にだけ負けたわけではないということだ。どんなに打たれても反撃しない五人の不可解なまでの無抵抗主義に、連中は既に圧倒されていた。恐れをも感じ始めていた。そこにヤンクミが加わることで連中は決定的に負けを認めたのだ。
今回も実に名台詞は多かったが、ヤンクミに対する矢吹隼人の「俺ら、お前には借り返すから」が特に泣かせる。
また今回も細部に笑いが多数あって一つ一つ挙げたら限がない。小さくて微妙なのを一つ挙げておこう。土屋光が履歴書用の顔写真で怖い目付きをしているのを見て矢吹隼人・日向浩介は「ガンとばしてどうすんだよ」と注意したのに対し、土屋光が田中邦衛みたいな口調で「舐められたくねえからよ」と応えたとき、それを聞いた小田切竜は「まあ気持ちは分かるけどさ」と呟いたが、矢吹隼人から「分かっちゃった?」とツッコミを入れられ、少し落ち込んでいたところ。何時も大きくヴォケまくりの三年D組の中で何時も一人だけ冷静なツッコミ役をつとめる小田切竜が、油断して小さな隙を見せてしまい、仕返しをされたわけだ。武田啓太が土屋のその怖い顔写真に替えて土屋と彼と二人で撮ったプリクラを出したところを見れば、どうやら彼もヴォケ集団の立派な一員だったらしいと判明する。
もう一つ。土屋光の面接試験の前夜、五人で「面接の前祝い」で盛り上がろうとした矢吹隼人・武田啓太・日向浩介に対し、小田切竜は「面接の前祝いなんてやんねえだろ?普通」と普通のツッコミを入れたが、日向浩介は「大丈夫、大丈夫。何も怖いことないぞ?」と小田切の肩に手を回した。その陽気な口調が絶妙だった。土屋に抱き付いての「寂しかった!」も面白かった。
ヤンクミの祖父、「大江戸一家」三代目の黒田龍一郎(宇津井健)の貫禄ある激励が泣かせるのは元来「ごくせん」名物だが、そこに今宵は松原理事役の南田洋子の気品ある優しさが加わり、ドラマに重みを増した。そして何よりも黒川理事長役の井上順のどこまでも冷ややかな憎らしさ!近年の井上順は本当に悪役に秀でている。NHK大河ドラマ時宗」でのことだったか、陰謀の公卿か何かを見事に演じていたかと記憶する。朝倉てつ(金子賢)のヤンクミへの忍恋もよい。あと、船木健吾(高良健吾)と川田優一(中村優一)と小橋直哉(尾嶋直哉)の美形な顔が目を惹いた。