ごくせん第六話

日本テレビ系ドラマ「ごくせん」第六話。仲間由紀恵主演。
日向浩介(小出恵介)と母の治代(手塚理美)。母と子それぞれの不安感がストレイトに表現されていて、なかなか泣けた。違法賭博の店を経営する辰己(小木茂光)に蹴られ殴られていた浩介を治代が夢中で必死に庇った姿には、不覚にも本気で落涙してしまった。治代は浩介のことを心配していたが、実は浩介もまた心配していた。母が自分のことを心配して不安になっていることを知って、そんな母の胸中を想像し、申し訳なく思っていた。それなのに彼は、実際に母を前にするや反抗的な態度を取ってしまった。男子というもの、どうしても親の前では素直になれないものなのか。そういった少年の心理の描写という点で、今宵の「ごくせん」は実に秀逸だったと思う。巷間云われるような単なる勢いだけのドラマではないことを、今宵の第六話が確と証明したわけだ。もちろん、母と子の間の素直ではない愛の話を描出した小出恵介手塚理美の熱演も賞賛に値する。実によかった。
それに先立つ場面。夕方、日向浩介に電話をかける治代と、その電話を早めに切る浩介。切ったあとに後悔する浩介と、不安を深める治代。悲しそうな浩介。焦りながら、繁華街を歩き回り浩介を探す治代。ここで視聴者は落涙の寸前まで追い詰められ、亀梨和也の歌う挿入歌「絆」がその感情をさらに盛り上げた。
黒銀学院の三年D組という場所、三年D組という集団における小田切竜(亀梨和也)の静かな存在感にも改めて注意しておこう。日向浩介の変化に、矢吹隼人(赤西仁)・土屋光(速水もこみち)・武田啓太(小池徹平)も流石に違和感だけは抱いていたが、違和感よりも反発が勝ったからか、その異変の意味を見抜くまでには至らなかった。中で小田切竜は、日向浩介の仕事が普通ではなさそうであることを早くから確信していたようだ。日向浩介を連れて夜の街を歩く辰己の怪しさを朝倉てつ(金子賢)が直ぐに見抜いたのと同じように。だからこそ小田切竜は真相の兆候に敏感だった。
また、小田切竜が第一話において不良連中に従い夜の店で働いていた事実がここに来て極めて重要な役割を果たした。日向浩介の働く店の名を聞いた小田切竜は、そこが普通のバーの奥に会員制の違法賭博場を備えた怪しい店であるとの噂を、瞬時に想起した。ヤンクミ(仲間由紀恵)による救出劇はそこから動き出したのだ。
今宵の第六話の後半は日向浩介の物語で盛り上がったが、前半にはもう一つドラマがあった。小田切竜と矢吹隼人が、ミノル(内山信二)の財布を偶然ひろったことから「大江戸一家」に招かれ、そこでヤンクミに遭遇した。ヤンクミの家が任侠一家であることを知ったのだ。大江戸一家の広間で、黒田龍一郎(宇津井健)率いる大江戸一家と食卓を挟んで対面する小田切竜・矢吹隼人。何れも正座して神妙にしていた絵が面白かった。「美人のお嬢ってお前かよ?」と聞いた矢吹隼人に、申し訳なさそうに「はい」と応えたヤンクミ。
ところで、冒頭にあったヤンクミと教頭の猿渡五郎(生瀬勝久)との対峙の場面。教頭一人だけが写るときの映像で教頭の背景が(映像の処理で)赤く塗り潰されていたのが、妙に安い感じで面白かった。
今宵の矢吹隼人「くだぱい」はその直後にあった。三年D組の生徒たちの大半の進路が未定であることを心配して熱くなったヤンクミに対し、矢吹隼人が「そんなに焦んないでくだぱい」と云ったのだ。赤西仁に毎週一言「くだぱい」と云わせておけば視聴者が喜んで面白がると思っているのだろうが、それは正解だ。「ごくせん」における楽しみの一つでさえある。なお、赤西仁はやはり前髪を下ろした方が断然よい。あと、坊主頭と鋭い眼差しの美形の船木健吾役の高良健吾(こうらけんご)が横顔も美形だったことも付記しておこう。
それにしても教頭は、ああ見えて流石に鋭い。新聞報道にある違法賭博店の摘発を招いた「善意の通報者」にヤンクミが無縁ではなさそうであることを確信していたようだった。最後、三年D組の連中にからかわれるヤンクミを見詰めるときの小田切竜と矢吹隼人の笑顔が柔らかな表情だった。
エンディング主題歌、D-51の「NO MORE CRY」の魅力については今さら云うまでもない。この笑えて泣けて最後また笑える痛快なドラマの終曲には実に相応しい。