義経

NHK大河ドラマ義経」。滝沢秀明主演。第十九話。
後白河院平幹二朗)は側近の丹後局夏木マリ)と院近臣の「鼓判官平知康草刈正雄)等を率いて法住寺殿に入り、院庁と定めた。そこに鎌倉の右兵衛権佐源頼朝中井貴一)より書状が届き、平家との和議の申し出が記されていた。院御所に偶々来ていた従二位尼平時子准后(松坂慶子)は丹後局鼓判官の妖怪コンビからそのことを聞かされた。さて、どう対処するのがよいか。この問題をめぐり二位尼の子の兄弟間に意見の対立が生じた。正三位参議平知盛阿部寛)が和議のことについて検討すべきではないかと主張したのに対し、当主の正二位権大納言近衛大将春宮大夫平宗盛鶴見辰吾)は院から直接そのことが提案されない限り検討するにも値しないと主張したのだ。ここには公私の別に関する法的な感覚の有無がよく表れていると云える。参議知盛が院と平家との関係を君と臣下との組織間の上下関係として正しく見ているのに対し、権大納言右大将宗盛は院と自身との関係を父子のように近しい関係にあると勝手に信じ込んでいる。前者が政治の恐ろしさを認識しているのに対し、後者はそれを認識できていない。無邪気であることは大人にあっては罪深い。
二位尼の葛藤も見落とせない。入道相国(渡哲也)の遺言として頼朝を打つべきことを一門に命じたのは二位尼だったが、一門を守るため和議を容れることも選択肢の一つとして考えたいのが今の心境ではないのか。しかるに権大納言宗盛の頭には今や入道の遺言を守ることしかないらしい。今さら二位尼がそれを覆すことは一門の間に無用の混乱を来たしかねない。退くに退けない状況にあるわけだ。
治承五年(1181)三月、墨俣合戦。従三位蔵人頭右近衛権中将平維盛賀集利樹)と従三位左近衛権中将平重衡細川茂樹)の大軍は「新宮十郎」源行家大杉漣)の軍を圧倒した。見事な大勝だったが、権大納言宗盛は三位中将維盛に対し、どうして追い詰めて殲滅しなかったかを責めた。これに参議知盛は直ぐに反論した。勝利に油断して深追いをすれば逆に鎌倉からの援軍に攻められた恐れあり、そうなれば知盛軍諸共に挟み撃ちに遭って全滅した恐れもあることを明らかにしたのだ。何れに説得力があるかは一目瞭然だ。権大納言宗盛は実戦を知らないから無茶ばかり言い放つ。こんなことでは部下は誰も付いて来なくなるだろう。
鎌倉殿の御所では梶原景時中尾彬)と梶原景季(小栗旬)の父子が情報収集能力と分析能力の冴えによって急速に頭角を現していた。和田義盛高杉亘)の侍所としての立場が早くも危うくなりつつあるのか。なお、今回は「蒲冠者」源範頼石原良純)が登場。源九郎義経滝沢秀明)と彼との兄弟愛は今後どのように描かれてゆくのだろうか。このほか「木曽冠者」源義仲小澤征悦)の重臣、今井四郎兼平(古本新之輔)も登場した。鎌倉殿と北条政子財前直見)の夫妻が義経の「一途さ」の魅力、「人を惹き付ける」カリスマ性に心打たれながらも同時に警戒感を抱いたところも面白かった。