映画ウォーターボーイズ感想

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勢いのよさがこの作品の基調だが、前半は案外そうでもない。
物語の開始から暫くの間は、展開も演技も余りにギコチなく唐突で少々もたついたような感じさえなくはなかった。だが、思うにそれもまた「高校生」という存在者の若さという特性をよく表現していたと見てよいのかもしれない。何と云っても、主演、妻夫木聡の、いかにも頼りなさそうな雰囲気は主人公の唯野男子高校三年生、鈴木智の人物像を数分間の映像のみによって表現し得ていたと思うし、彼の曇りのない底抜けに明るい笑顔は全ての観者を魅了し得たはずだ。柄本明徳井優内田春菊の演じるゲイバーのママたちを味方につけた場面も面白かった。しかも、この挿話が単なるウケ狙いではないのは、物語の後半、金子貴俊の演じるゲイ少年、早乙女聖の想いと、シンクロ本番におけるその表現との場面が物語っていよう。少年たちの心の自由が性に対する柔軟性を通して描かれていると見てよいはずだ。
平山綾の演じる桜木女子高校の空手美少女、静子に連れられて水族館に遊びに行った鈴木智がそこでイルカショーを見て感動し、竹中直人演じるイルカショーの司会者、イルカ調教師の磯村に「あのイルカのようになりたい」と願って、ほかの四人の水泳部員たち、佐藤勝正(玉木宏)・早乙女聖・金沢孝志(近藤公園)・太田祐一(三浦哲郁)とともに入門した際の、そこでの修業振りもよい。毎日の肉体労働を通して知らず知らず自然に運動能力の基本を身につけるというのは映画「ベスト・キッド THE KARATE KID」(1984年・米国)以来、今や馴染みある展開ではあるが、ここではそれを一種のパロディとして見せているところが笑える。ほかにも楽しい挿話が少なくはない。
だが、この作品が真に面白くなるのは一寸した誤解から海での彼らの練習の様子がテレヴィのニュース番組で取り上げられてしまってからの展開だと思う。結果的にそれは幸運にも部員の大増員につながるのだ。そしてそこからは勢いが止まらない。物語は一気に走り始めて最終局面に至る。
文化祭「唯野祭」の前日、唯野男子高校の校内の火事の消火のためプールの水が使用され、プールの水の大半を失うという最大の危機さえも、桜木女子高校文化祭の実行委員会からの会場提供の申し出を受け、桜木女子高校にある50mプールの大会場を借りての挙行という形へ意想外の好転を見せる。最悪から最高へ。もはや全ては彼らに味方してくれているのだ。桜木女子高校文化祭実行委員会の眼鏡娘三人組(秋定里穂・土師友起子・上野未来)が鈴木智たちに会場提供を申し出るとき眼鏡を外したのもここでの見どころの一つだろう。真面目少女の愛らしさがよく出ている。
そして終盤。大勢の男子高校生たちが力強くシンクロを演じる場面の、身体の躍動と水飛沫のきらめきは、ただそれだけで見るに値する。物語半ばのイルカショーの場面さえも、単に物語を必然性において進展させるための手段としてのみ挿入されたのではなく、むしろこの最終場面に一種の既視感を添えるためこそ敢えて設定されなければならなかったようにさえ思えてくる。まさしくイルカが舞うように舞う高校生たちの姿こそ映画「ウォーターボーイズ」の本質にほかならない。