炎神戦隊ゴーオンジャー第二十五話

東映炎神戦隊ゴーオンジャー」。
第二十五話「母上サヨナラ」。會川昇脚本。諸田敏監督。
題名にある「母上」とは「オカン」と訓まれる。ゴーオンジャーにおける「オカン」役といえば料理上手で世話好きのゴーオンブルー香坂連(片岡信和)だが、この題に云う「母上」は、少なくとも最終的には、彼の母のことに他ならない。彼は亡き母の思い出を、故郷の海の近くにある洞窟の中の奇妙な地蔵に投影し、延いてはその地蔵に母の面影をさえ見ようとしていたのかもしれない。だが、その地蔵の正体はガイアークの一味の者だった。地蔵を倒そうとしたゴーオンゴールド須塔大翔(徳山秀典)と、庇おうとした香坂連。そして連の意を汲んで大翔を止めようとしたゴーオンブラック石原軍平(海老澤健次)。やがて連は意を決して自ら地蔵を倒したが、それは同時に、地蔵にまつわる感傷を乗り越え、自ら本格的にゴーオンジャーの「オカン」となることで母を亡くした悲しみを乗り越えることでもあった。「母上(オカン)サヨナラ」とはそのようなことだった。
とはいえ物語の過程では、「オカン」としての連が「オカン」としての役割を放棄しようとする場面もあった。普段は最も冷静で穏やかな連が普段とは違う行動を取ったのは、五人で彼の実家の高級旅館「香坂」へ遊びに行ったからだった。幼時から少年時代までを過ごした懐かしい場所へ帰ったことで心も幼少期へ帰ったのだろうか。だが、故郷の海の旅館へ皆を招待したのは彼自身なのだ。そのことに気付くとき、折角の夏なのだから偶には休暇を取って旅行にでも行きたい!と他の四人が無邪気に騒ぐ中、一人「オカン」役の彼のみは苦しい家計の心配をせざるを得なかった姿が余りにも印象深く思われてくる。ゴーオンジャーの仲間として五人とも本来は全く同じ立場であるはずなのに、一人だけは皆の世話を焼かなければならないというのは、実のところは理不尽な話ではある。不図この状況に疲れを感じたとしても無理はない。彼も若者なのだ。「オカン」役から偶には解放されたいという思いを抱いたからこその、今回の帰郷だったと推察される。
連には、「オカン」役を辞めて皆に分担を強いるという選択肢もあり得たはずだし、他の四人も決してそれを拒否しはしなかったろう。しかし拒否されないことは上手くゆくことと同じではないし、何より彼自身にそのような選択は考えられなかったのだろう。母を亡くした悲しみを忘れることのできなかった彼はゴーオンジャーを新たな家族とし、自らがその「オカン」役を引き受けることを選択したことで、悲しみに別れを告げることを得たのだ。
このゴーオンジャーという家族において母が連であるとすれば(だが、何と美青年な母だろうか)、父親の位置にあるのはゴーオンレッド江角走輔(古原靖久)。しかも、かなりの頑固親父だ。しかし今回の彼は子ども以上に子どものようだった。海へ行きたい!夏休み欲しいと駄々をこね、旅館の豪勢な料理に大ハシャギ。出かける前から既に水着に着替えていた程。しかし彼の上半身裸は美しかった。性格は頑固親父でも、やはり若者なのだ。
ところで。地蔵の正体は蛮機族ガイアークの名門アレルンブラ家の騎士ウズマキホーテ(声:楠見尚己)だった。遠い昔、同族の王子とともに機械界から人間界へ移転したものの、汚い環境の中でしか生きることのできない蛮機族の本性によって、美しい環境の中では気力を失い、洞窟の中で石像と化していたということらしい。
害気大臣キタネイダス(声:真殿光昭)と害水大臣ケガレシア(及川奈央)がそれを探しに来たのは、現在、新たな蛮機獣の製造ができない状態にあるからだった。蛮機族ガイアークの居城ヘルガイユ宮殿では害地大臣ヨゴシュタイン(声:梁田清之)がヒラメキメデスの法事を執り行っていて、そのための場として蛮機獣製造用の個室を占拠してしまっているのだ。そこでキタネイダスの発案により、製造できないなら発掘すべし!ということでアレルンブラ家の騎士を探しに来たのだった。ケガレシアがアレルンブラ家に対して何か嫌な思い出を抱えていそうであるのは次回以降の話に関係があるのだろうが、興味深いのは、ウズマキホーテがケガレシアを「姫」と呼んだこと。アレルンブラ家の「王子」に関して云えば、そもそも西洋流の名分論を考えると、王になり得る貴族は皆「王子」と呼ばれる(例えば、今なお「パリ伯」を自称するフランスのブルボン家の当主は一族や家来から「王子」と呼ばれている)わけなので、「王子」がアレルンブラ家という蛮機族の貴族の当主であると考えることもできるが、或いは「王子」の父である「王」がこの一族の当主であるなら、蛮機族ガイアークは王国ではなく帝国であると判明する。諸国の王たちの上に君臨する者が皇帝であるからだ。「大臣」の地位にあるケガレシアが「姫」であるのは、王制であれば王の娘か王子(諸侯)の娘か、帝政であれば皇帝の娘か王(諸侯)の娘であるからと解することができるはずだ。